【セミナーレポート】2030年 人事意思決定の構造――AIエージェント時代に求められる「タスク単位」の仕事再定義

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はじめに

2026年1月29日、Institution for a Global Society株式会社は、「2030年 人事意思決定の構造」をテーマとした人事向けセミナーを開催しました。

AIは、単なる業務支援ツールの段階を越え、目的を与えれば自律的に業務を遂行する「AIエージェント」へと進化しています。

本セミナーでは、人事が向き合うべき論点が「AIを使うかどうか」ではなく、「仕事の何を人に任せ、何をAIに任せるか」に移りつつあることが共有されました。

中心となる議論は、「職種(ジョブ)単位ではなく、タスク(仕事の最小単位)で仕事を再定義する必要性」です。AIが代替する対象は職種そのものではなく、それを構成する個々のタスクであり、この前提に立たなければ、人材配置や育成、スキル投資における意思決定は今後ますます難しくなるからです。

本記事では、セミナーの内容をもとに、なぜ今「タスク単位での仕事の再定義」が人事にとって重要なテーマとなっているのか、その背景と構造を整理します。

【画像1】「理論整理セッション」より。AI活用の前提として、業務をタスク単位で再定義する必要性を解説。スピーカー:福原 正大(人的資本理論の実証化研究会 共同座長/Institution for a Global Society株式会社 CEO)

1. なぜ今、ジョブではなく「タスク」に注目すべきなのか

日本型メンバーシップ雇用が抱える構造的な前提

これまで多くの日本企業の人事においては、スキルや役割が明確に定義されていない「人」を、 職種や部署といった比較的大きな単位に配置する形で運用されてきました。

この運用は、長期雇用を前提とした環境下では一定の合理性を持っていましたが、事業環境や技術の変化が加速する中で、仕事の中身が十分に言語化・構造化されないまま人材配置や育成が行われているという課題を内包しています。

実際、ノーベル経済学賞受賞者のダロン・アセモグル氏は、「日本型のメンバーシップ雇用を前提としたままでは、企業の持続的な価値向上が難しくなる可能性がある」と指摘しています。

【画像2】ダロン・アセモグルの理論を参照し、タスクの標準化と人材スキルの定量評価を両輪とする新たな人的資本モデルを提示。スピーカー:福原 正大(人的資本理論の実証化研究会 共同座長/Institution for a Global Society株式会社 CEO)

この指摘は、雇用制度そのものを否定するというよりも、「仕事をどのような単位で捉え、意思決定しているのか」という構造的な前提に対する問題提起と捉えることができます。

AIエージェントの登場が顕在化させた論点

AIが自律的に業務を遂行する「AIエージェント」へと進化する中で、人事に突きつけられている問いは、「AIを導入するかどうか」ではなく、「どの業務をAIに任せ、どの業務を人が担うのか」という切り分けの問題です。

ここで重要なのは、AIが代替する対象が、職種(ジョブ)全体ではないという点です。AIが影響を与えるのは、職種を構成する個々のタスク(仕事の最小単位)であり、人が持つスキルもまた、職種単位ではなく、それぞれのタスクに対応する形で発揮されます。

この前提に立たなければ、AI導入の影響を正しく見積もることも、人材育成や配置の判断に反映させることも困難になります。

タスクが定義されていないまま進む意思決定の限界

セミナーでは、実際に職種をタスク単位に分解し、構造化するイメージも示されました。

【画像3】対象職種を30前後のタスク単位に分解した構造マップの一部(イメージ): IGS作成

セミナーでは、タスク単位で仕事が整理されていない状態では、次のような問題が生じやすい点が共有されました。

  • 職種単位では業務の中身が見えず、AI代替の議論が抽象論にとどまる

  • 人が担うべき業務と、AIに任せ得る業務の線引きができない

  • 結果として、配置・育成・スキル投資が過去の延長線上で行われてしまう

こうした状況は、AI活用以前の段階で、仕事の中身が十分に整理されないまま、人事に関する意思決定が行われているとも言えるでしょう。

AIエージェント時代においては、仕事をタスク単位で捉え直すことが、人事にとって不可欠な出発点になりつつあるのです。

2. 【実践編】戦略的スキルマップ構築の3ステップ

【画像4】職務(Job)を構成するタスクを分解し、実行単位に紐づけて必要スキルを定義するアプローチを提示。スピーカー:中里 忍(Institution for a Global Society株式会社 COO)

前章で見てきたように、AIエージェント時代の人事においては、職種単位ではなく、タスク単位で仕事を捉え直すことが前提となります。

セミナーでは、その前提に立ったうえで、人事の意思決定につなげていくための具体的な進め方として、3つのステップが示されました。

Step 1:経営戦略(中期経営計画)からの逆算

最初のステップは、現場業務の洗い出しから始めることではありません。まず行うべきは、中期経営計画や長期ビジョンといった経営戦略を起点にすることです。

セミナーでは、

  • その戦略を実現するために

  • 各職種が担うべき役割やミッションは何か

を整理することの重要性が強調されました。

この工程を経ずにタスク分解を進めてしまうと、業務の網羅性は高まる一方で、戦略との関係性が不明確なタスクやスキルが並ぶ状態になりやすくなります。

人事施策を戦略と接続するためには、まず「どのような役割が期待されているのか」を明確にすることが、タスク分解の前提になります。

Step 2:グローバル基準(O*NET/ESCO)によるタスク分解

次に行うのが、職種を構成する業務をタスク単位に分解するプロセスです。この際、セミナーで示されたポイントは、自社の経験や慣行だけに基づかないことでした。

具体的には、米国の職業情報ネットワークである O*NET や、欧州の職業・スキル分類である ESCOといったグローバルなデータベースを参照しながら、

  • 一つの職種を、目安として約30前後のタスクに分解する

  • 各タスクについて、AIによる代替可能性(AIエクスポージャー)を整理する

という進め方が紹介されました。

こうした外部基準を活用することで、特定の企業や個人の経験に依存しすぎることなく、比較的客観的な形で業務内容を整理できるという点が示されました。

Step 3:人間が担う「コアタスク」とスキルの整理

タスク分解とAI代替可能性の整理を踏まえたうえで、最後に行うのが、人間が担うべきタスクの特定です。

【画像5】AI代替可能性と活用度を整理したバックロード診断(例): IGS作成

セミナーでは、AI適用後も人が担うことになる業務として、

  • 判断や調整を伴う業務

  • 他者との関係性の中で遂行される業務

  • 組織として戦略的に重視すべき業務

といったタスクに着目する必要がある点が共有されました。

そのうえで、これらのタスクを遂行するために必要なスキルを、専門知識や技術といったハードスキルだけでなく、それらを支えるソフトスキル(コンピテンシー)も含めて整理するという考え方が示されています。

このステップを経ることで、配置、育成、採用、スキル投資といった人事施策を、タスクとスキルに基づいて検討できる状態をつくることが可能になります。

3. 展望:組織の固定化を止め、流動的なマッチングへ

ここまで見てきたように、仕事をタスク単位で整理し、スキルとひも付けて捉え直すことで、人事の意思決定は、職種や部署といった固定的な枠組みから、より柔軟な検討が可能な状態へと近づいていきます。

セミナーでは、こうした整理が進んだ先の姿として、人材配置の考え方そのものが変わり得る点にも言及がありました。

「固定配置」から「タスクベースのマッチング」へ

従来の人事運用では、

  • 人をどの部署に配置するか

  • どの職種として任せるか

といった固定的な配置が前提になりがちでした。

一方で、タスクとスキルが一定程度可視化されると、

  • どのタスクに、どのスキルが必要か

  • そのスキルを、誰が持っているのか

といった観点から、仕事と人をより細かい単位で結び付けて考えることが可能になります。

セミナーでは、米国企業を中心に、組織や職種を固定せず、タスク単位で人材をアサインするプロジェクト型の運営が広がりつつあることも紹介されました。

人事の役割が変わる可能性

このような考え方が進むと、人事の役割も、配置や制度運用から、仕事とスキルの組み合わせを設計する役割へと広がっていきます。

  • どのタスクを内製で担うのか

  • どの業務をAIや外部に委ねるのか

  • 人に残る業務に対して、どのスキルを強化すべきか

といった問いを、感覚や経験だけでなく、 一定の構造をもって検討できるようになることが示唆されました。

2030年に向けて求められる視点

セミナーでは、「2030年」という時点が、決して遠い未来ではない点も強調されました。AIエージェントの進化を前提とすると、人事においても、

  • 職種を前提に考えるのか

  • タスクを起点に考えるのか

という視点の違いが、中長期的に大きな差を生む可能性があります。仕事をタスク単位で捉え直すことは、 特定の制度や手法を導入することそのものではなく、人事の意思決定の前提を整理する取り組みだと言えるでしょう。

まとめ:本セミナーで共有された視点

本セミナーでは、AIエージェントの進化を前提としたうえで、人事が向き合うべき論点として、職種ではなく、タスクを起点に仕事を捉え直す必要性が整理されました。

AIが代替する対象は職種そのものではなく、それを構成する個々のタスクであり、この前提に立たなければ、人材配置や育成、スキル投資に関する意思決定は難しくなっていきます。

セミナーではあわせて、経営戦略から逆算し、グローバル基準を参照しながらタスクとスキルを整理していく考え方や、その先に、人材配置のあり方そのものが変わり得る可能性についても共有されました。

今後も当社では、AI時代における人事の意思決定や仕事の再定義をテーマに、セミナーや情報発信を継続していく予定です。

引き続き、実務に資する視点を提供していきたいと考えています。

本セミナーの内容をもとに、個別の検討をご希望の方へ

本セミナーでご紹介した考え方や進め方について、自社の職種や業務に当てはめて整理してみたいというご要望にお応えし、個別相談や資料提供を行っています。

  • 自社の特定職種において、どの業務をタスクとして整理すべきか

  • AIに任せ得る業務と、人が担うべき業務をどのように切り分けるか

  • 人材配置や育成、スキル投資の検討にどうつなげていけるか

といった点について、本セミナーの内容を踏まえながら、状況に応じて整理をサポートします。

まずは情報収集や論点整理の一環としてでも構いません。ご関心のある方は、下記よりお気軽にお問い合わせください。

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