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本シリーズ「実録・HRケーススタディ」では、IGSの営業担当が日々向き合っている実際の企業相談をもとに、人事と経営のあいだで何が起きているのか、どこで判断や施策が止まりやすいのか、それをどう整理し、前に進めているのかをお伝えしています。
今回は、「ハイパフォーマーが社内に見当たらない」という状況下での人材育成設計についてご紹介します。
社内モデルが不在でも、2つの比較軸を使えば育成の方向性は作れます。
日本を代表する繊維製品のグループ会社の人事部門から、こんな相談を受けたことがあります。
「営業職のメンバーに、成長のモデルになるような先輩がいないんです。全員がそこそこのレベルで、背中を見せられる人がいない。評価しても、どんぐりの背比べなんです」
営業職における人材育成の典型的なアプローチは、「ハイパフォーマーの背中を見て学べ」です。
トップセールスの話し方、動き方、顧客との関わり方——それを見て気づき、真似て、自分のものにしていく。
機能している組織では、このサイクルが自然に培われています。
しかし、その前提が崩れるとどうなるか。
営業職全員が均質で「この人のようになりたい」と思える先輩がいない。
学べるモデルがいないまま自分流のやり方だけで成長しようとすると、どこを目指せばよいかがわからず、成長が停滞しやすくなります。
これが「均質組織」が抱える構造的な問題です。
この問題に対して、まず思いつく解決策は「360度評価を導入して、ハイパフォーマーと比較する」です。
スコアの高い人を基準に、目指すべき姿を明確にするアプローチです。
しかし、これには落とし穴があります。
全員のレベルが均質な場合、「ハイ」と「ロー」の差がそもそも小さいため、比較しても示唆が出にくい。
ハイパフォーマーが上位数%に入るほどの差があれば「目指すべき姿」が明確になりますが、均質な集団内で競い合っても、目標となるモデルは現れません。
では、モデルが内部にいないとき、人材育成の指針はどこに求めればよいのでしょうか。
答えは、内部に基準を作ることです。
「実在するハイパフォーマー」との比較ではなく、「会社が求める行動」との比較、そして「昨日の自分」との比較——これらを軸にすれば、モデルが不在でも育成の方向性は作れます。
具体的には、以下の2つの軸を組み合わせることをお勧めしています。
360度評価で得られる「自己評価と他者評価のギャップ」は、自分自身の盲点を明確にします。
自分は「傾聴できている」と思っていたのに、周囲からは「伝わっていない」と見られている。
このギャップが数字で示されたとき、人は変わるための動機を持ちやすくなります。
また、年次で同じ指標を計測することで、「去年の自分」と比較することもできます。
全体のレベル感に関わらず、一人ひとりに「成長した」「足踏みした」が数値で追える。
この軸においては、均質組織の問題は回避できます。
多くの企業にはすでに行動評価の項目が存在します。
「顧客の立場で考える」
「主体的に行動する」
「チームを巻き込む」
——これらは、会社が営業職に求める行動です。
「GROW360+(グロー・サンロクマル・プラス)」のコンピテンシー指標と、この行動評価項目を結びつけることで、「会社が求める行動に対して、自分は今どの位置にいるのか」が定量的に把握できるようになります。
「昇格に求められる行動」と自分の現在地点との差分として示されるため、「何を伸ばせばいいのか」が腹落ちしやすくなります。
この2つの軸を組み合わせることで、「自分の成長」と「会社が求める成長」の両方を同時に追うことができます。
育成が属人的にならず、日常の業務と結びつきやすいのがこの設計の利点です。
「自分は十分に動けているつもりなのに、周囲からはそう見られていない」
このギャップが数字で示されたとき、人は初めて変わりたいという気持ちになります。
行動変容の研究(プロチャスカのトランスセオレティカルモデル、TTM)によると、人が変わるには5つのステップがあります。
変わる必要性を感じていない「無関心期」から、変わった方がよいかもと思い始める「関心期」、方法を模索する「準備期」、実際に行動する「実行期」、そして継続する「維持期」です。
360度評価の結果は、この「無関心期」を打ち破ることに最も効果を発揮する可能性があります。
「気づいていなかった弱み」「発揮されていなかった強み」が数字で明らかになったとき、人は一歩を踏み出したいという気持ちになりやすくなります。
均質組織でもう一つ直面する問題が、上司のフィードバック機能の形骸化です。
本来、360度評価の結果は上司がフィードバックを行う場として活用されるものです。
しかし、上司自身のコンピテンシーが平均的な場合、「何をどう導けばいいか」を具体的に語れないマネージャーが生まれます。
この構造を打破するには、上司に高度なコーチングスキルを求めるのではなく、「データを基に対話できるツール」を渡すことが重要です。
「GROW360+」のレポートと面談ガイドを活用することで、上司は「次の等級に向けて何が必要か」をデータを示しながら話せるようになります。
「育てる力」を個人に属人させず、仕組みで補完するという発想です。
具体的な進め方は、次の3ステップで考えると整理しやすいです。
STEP 1:能力定義の設計
自社の行動評価項目と「GROW360+」のコンピテンシーを結びつけ、「会社が営業職に求める行動」を定義する。
STEP 2:能力測定
「GROW360+」を実施し、コンピテンシー・気質(変わりにくい特性)・営業スキルを計測。バイアス補正された客観的スコアと個人レポートを生成する。
STEP 3:フィードバックとアクションプラン策定:受検者向けセミナー、上司向け面談ガイドを用いて、個人のアクションプランを策定する。
2年目以降は、同じ指標で再測定を行い「前回比較」データを活用することで、個人の成長を数値で追跡できるようになります。
上司の1on1が「データ主導の対話」へと近づいていくことが、最終的なゴールです。
営業職に限らず、内部に成長モデルがいない組織では、「伸びているのかどうかわからない」という状態が生まれやすくなります。
これはデータがないから起きることです。
「育成の基準は『先輩の背中』ではなく、『データ』で作れる」
——この発想ができるかどうかが、モデル不在時の人材育成の分岐点になります。
同じような課題をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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