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「DX戦略は戦略人事との協働で決まる」対談レポート

#DX人事 #DX

2022 年 4月 26 日(火)、書籍「日本企業のポテンシャルを解き放つ―DX×3P経営」出版を記念して、株式会社people first代表取締役八木洋介氏とIGS代表福原とのオンライン対談イベントを開催いたしました。

DXに取り組みつつも、様々な課題に直面している企業の方々に向けて、戦略人事の第一人者である元LIXIL副社長八木洋介氏と、IGS代表福原正大が「DX戦略は戦略人事との協働で決まる」をテーマに対談しました。

組織トランスフォーメーションにおけるリーダーの役割、人々を巻き込むストーリーの語り方など、実践的なヒントがちりばめられたイベントの模様をお届けします。

 

<登壇者紹介>

八木様写真八木洋介 氏

株式会社people first 代表取締役
(元 株式会社LIXILグループ執行役副社長)

1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。1996National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、複数のビジネスで人事責任者などを歴任。

2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長に就任。Grohe, American Standard, Permasteelisaの取締役を歴任。2017年 株式会社people firstを設立して、代表取締役。株式会社 TBSホールディングス 社外取締役、GEヘルスケア・ジャパン株式会社 監査役。その他複数の会社の顧問就任。著書に「戦略人事のビジョン」。

 

福原写真2018-1福原正大
Institution for a Global Society CEO

慶應義塾大学経済学部卒業、欧州経営大学院(INSEAD)MBA、グランゼコールHEC国際金融修士(最優秀賞)、筑波大学博士課程修了。博士(経営学)。東京銀行(現三菱UFJ銀行)、バークレーズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック)最年少マネージングディレクター(MD)、日本法人の取締役を歴任。世界のiShares創設時にMDとして深く関与。2010年IGS株式会社を創設。2016年2月より、人工知能とビッグデータを活用して、採用や企業の組織分析を行う「GROW」サービスを開始。人材・組織データ分析に基づくコンサルティングを複数の大手企業に提供し、「攻めのDX」に向けた組織変革を支援する。経済産業省・一橋大学大学院共同発案「デジタル・トランスフォーメーション・フォーラム」、DXに関する企業幹部向けの講演も多数。

 

<モデレーター>

PXL_20220117_101243732-1下田 理
英治出版プロデューサー
1981年福岡県生まれ。ITコンサルティング企業勤務を経て現職。ソーシャルビジネス、平和構築、組織開発、教育分野の本をプロデュース。『ティール組織』『なぜ人と組織は変われないのか』『私たちは子どもに何ができるのか』などを手がける。日本初のティール組織のカンファレンス「Teal Journey Campus」の開催(2019年)、チームの自律的な進化を支援する「Team Journey Supporter」の設計・開発(2020年)など、書籍編集以外の事業開発にも携わっている。

 

<目次>

イノベーションへの恐れを、自社らしさの醸成で越えていく

変革が生まれない組織の構造的な理由

自社らしいビジョンの生み出し方

ビジョンの組織浸透のポイントは、熱を伝える工夫

強い重力の中でも変革を起こすには

 

 

 

イノベーションへの恐れを、自社らしさの醸成で越えていく

下田:
本日モデレータを務めさせていただきます、英治出版の下田と申します。よろしくお願いします。

八木さんの著書「戦略人事のビジョン:制度で縛るな、ストーリーを語れ」は人事に携わる多くの方にとってバイブルのような存在となっています。本日は戦略人事と言う観点から、「DXと人」についてお話を伺っていければと思います。

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八木:
ありがとうございます。まずはDXに関して私の考えをお伝えさせていただくと、DXとはデジタルの力を活用し劇的な価値を生み出すもの、という認識があります。すると、既存のビジネスモデルの変革、いわゆるイノベーションが必要になってきます。

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八木:
デジタルな情報からイノベーションを起こす、といってもデータを見ているだけではアイデアは生まれません。今注目されているAIでも、現在は分析に関することがメインで、変革につながるアイデアを自動的に生み出すことはできない。

では、どのようにイノベーション・価値創造を起こしていくか。そこで福原さんが提唱されている3Pが必要になってくるんです。フィロソフィー(Philosophy)を持ったピープル(People)が、プロセス(Process)に沿って知恵を活かし、リーダーシップを発揮して変革を起こしていく 

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IGS代表 福原正大 著日本企業のポテンシャルを解き放つ―DX×3P経営(英治出版)より抜粋

八木:
組織の中には、先が見えないことへの恐れから変革に反対する層も多いと思うんです。多数決で物事を決めていては、変革なんてできません。それを乗り越えていくには、人を巻き込みながら変革を推し進めていくリーダーシップ以外ないでしょう。

AIもデータも、新しいツールの活用も、とても大切ではあるのですが、人の力があって初めて変革が可能になる。そもそもDX自体が目的なのではなく、人の想いを実現するためにDXがある、という順番を間違えてはいけません

福原:
おっしゃる通りですね。DXというと、データサイエンスやAIといったハードスキルにばかり目が向きがちですが、マインドの部分も見落としてはいけません。IGSではDX推進に欠かせないマインドセットを可視化するツール・DxGROWを開発しています。

→ DX推進に欠かせない人材データの可視化ツール・DxGROWの詳細はこちらから

スクリーンショット 2022-01-18 16.36.53-2DxGROWフィードバックレポートのサンプル

 

八木:
日本の戦後復興は製造業における効率化、標準化という戦略で成長してきましたが、今の時代は複雑化し、各個人の多様な価値観を重視する時代になりました。これまでの正解が通用しないので、一括管理のマネジメントではなく、適応力がある柔軟な現場と、心理的安全性が保たれた組織を育てていかなければいけない。そこでオーセンティックリーダーシップが注目されてきましたね。私なりにこれを言いかえると、自分らしさを活かしたリーダーシップが求められる時代になった、となります。

それぞれの会社が異なる経営哲学を持ち、異なる事業を異なる組織でおこなっています。そうした自社らしさを活かした戦略をもって差別化していくことが大事なのではないでしょうか。

 

 

変革が生まれない組織の構造的な理由

福原:
元々八木さんとは「人工知能×ビッグデータが「人事」を変える」という本を2017年に出した際にご連絡をいただいた頃からの関係ですが、人としてリーダーでありながらも、データの重要性についてどなたよりも意識されていらっしゃって、私も多く学ばせていただいています。

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福原:
お話にあったように、この30年急速に伸びた企業のリーダー、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズは社会全体を敵に回しながらも強引に夢を描いて進めていった訳です。ただし、従業員一人ずつの膨大なデータも分析しながら。そこで3つのPのように人を中心としながら、またシュンペーターのいう大きな経済のダイナミズムを捉えながら、DXを自社らしくおこなっていくことが大切なんですね。

八木:
そもそもイノベーティブなアイデアって、組織や社会にすぐに受け入れられるものなんでしょうか。イーロン・マスクが民間で宇宙旅行事業のアイデアを出したときに、多くの人はそんなことは無理だ、と思ったんじゃないでしょうか。そもそも新しい挑戦の成功確率は非常に低いものですよね。なので、失敗に対してネガティブな人がリーダーポジションにいれば、アイデアも途中でつぶされてしまいます。この構図が、日本にイノベーションが起きない理由だと思います。

福原:
私たちも様々な企業様のデータを見ていく中で、イノベーションに必要な気質や能力を持っている方は少なくないことがわかっています。ただし、組織の重要なポジションに、リスク回避的な意思決定をする方の割合が多いことも実感しています。ただ、細かいデータの分析なしではトップはそれが見えないんですよね。
IGSが提供するDxGROWでは、DX推進に関わるバイアスをDXバイアスと定義し、目に見えない潜在的な意識を可視化することができます。

DXに対する嗜好・傾向を示すDXバイアスについて詳しく知りたい方はこちらから

図4 DXバイアス

八木:
組織のトップには突然変異的にイノベーションに対して理解がある人が多い印象があります。でも日本の組織はリスクをとる志向の人たちが少ない。なぜかと言うと日本企業の半数以上は年功序列を人事の基本思想にしているからなんです。年功序列は勝ち抜き戦です。甲子園と一緒で、一回でも負けてはいけないんですね。だから失敗を避けてしまう。評価のためにはリスクテイクはせず、目の前のことを一生懸命やる、という選択肢になります。

その点、今若い人たちがスタートアップ企業を盛んに立ち上げられていますね。私たちとしてもここはサポートしなきゃいけないし、企業の中にいるイノベーティブな人たちを活性化させていかないといけないと感じています。人の感性を理解した上で、DXを起こす方法や制度を、そういう組織をつくっていきたいですね。

 

 

自社らしいビジョンの生み出し方

下田:
ありがとうございます。先ほど自分たちらしさ、自社らしさを見いだしていくとお話されましたが、いざ会社単位とか組織体でそれを見つけようとすると、どういうプロセスを踏んでいくのでしょうか。八木さんや福原さんのご意見を伺えますか。

スクリーンショット 2022-05-24 15.42.29 八木:
自社らしさってね、過去だけ見ても面白いものが出てこないんです。どんな価値を世の中に提供したいのか、という想いが先に来ないといけません。その上で、企業が持っている歴史や現在の状況を鑑みて、実現に向けたプロセスを設計していく。こう考えていくことで、自社らしさにたどり着けるんじゃないかなと思いますね。

福原:
イーロン・マスクの考え方とまさに被りますね。彼もSFの世界からヒントを得てビジョンを描いています。その実現に向けて、まず仲間3人とロケットのロシアのロケットを分解したりして少しずつ形をつくりながら、未来から巻き戻した現在に必要な人材を集めていった。

この場合、ある意味ベンチャーなのでゼロからつくれる訳ですが、大企業においても考え方は一緒です。世界の変化に合わせてビジョンを描き、現場の小さな変革を全体的に同時に動かしていく仕組み、プロセスを整える。するとどこかで結晶化して大きな動きになってくる。

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福原:
 
ただ、肝心なのは熱だと思うんですよね。何万人もいる社員の人たちのモチベーションと、会社が目指すものが一致する状態をつくるために、熱から生まれたエンゲージメントが求められるんだと思います。

八木:
そうですね。今いるメンバーたちのヒストリーと哲学をよく理解した上で、この人たちのハートをがっちりつかみにいくことが経営としてもすごく意味があるし、強いと思いますね。その延長線上にDXX、つまり現状を変えるトランスフォーメーションがある。何万人もいるメンバーたちが自分たちの力を合わせることとても大きなパワーになる訳ですね。

 

 

ビジョンの組織浸透のポイントは、熱を伝える工夫

下田:
なるほど、ありがとうございます。ここで参加者の方からご質問をいただきました。「経営陣がビジョンを描いたとして、それを組織の中にどうわかりやすく伝えていくのか、どう浸透させるのか?」このご質問に対して何かアドバイスはありますか?

 八木:
やはり、想いだと思います。自分たちが何を実現したいのかを伝えていく。その成功の確率は低いかもしれないけど、実現したときに社会に何が起こせるのかを熱意をもってリーダーが言えるかどうかじゃないでしょうか。

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八木:
今、製
薬会社のエーザイさんがアルツハイマーの薬をつくっていますよね。世界中の製薬会社さんは難しいから諦めている分野です。でも、エーザイさんはそのカギを1年程前に掴んだ。直接聞いた訳ではないんですが、ここにも誰かの熱が、想いがあったんじゃないでしょうか。高齢化先進国の日本がアルツハイマーの薬をつくらないで、他に誰がやるんだ、っていう熱が人の力を引き出したんじゃないかと考えています。

組織の中でイノベーションを起こす際にも、いわゆるこうしたストーリーテリングが重要なんじゃないでしょうか。 

福原:
私も外資系企業に勤めていた際、ビジョンを伝えるためによく動画を作成していました。ビジョンは抽象度が高いので、未来像を具体化して動画にできると効果的だと思います。

最近でもドイツの郵便会社が何十年も先の未来を描くアニメーションをつくっていましたよね。自分たちの存在によって未来がどう変わるのかを、自社だけでなく全世界中に流した。Googleでも将来的にやりたいことに関する動画を毎年41日、エイプリルフールに合わせて世の中に出したりしていました。Pokémon GOもそこから生まれた訳ですよね。

他にも、清水建設さんは日本SF作家と協働して小説を出したりもしています。ビジョンを未来像とともに伝えるために、様々な工夫の仕方があるように思います。

 

 

強い重力の中でも変革を起こすには

下田:
言語以外の感性に訴える工夫によって、想いの熱を伝えていく、ワクワク感を高めていくということですね。ありがとうございます。

また、変化を起こしたいと考えられている、でも組織の重力に引っ張られている組織内の若手層に向けて何かアドバイスはあるでしょうか。

八木:
辞めてもいいんじゃないかと思いますが、それもリスクですよね。ただ、皆さんが働いている会社の多くが、実は若者たちの想いを実現してあげたいと思っているんです。とは言え会社としてのリスクは採りにくい。そこで何が起きているかと言うと、副業・複業でのスタートアップへの取り組みです。

僕が知ってる方の中だけでも、新しい価値を生む活動に対してお金を出そうとしている方は少なくありません。Jリーグのチェアマンをされていた村井さんも知り合いですが、地方創生に100億円集めるファンド構想を出してましたよね。数十億円のお金なら出してみてもいい、と言う方は増えてきていると思います。そうした動きに対して、企業は副業を認め始めましたから、使わない手はないですよ。

また、場合によっては企業とうまく話をつけて、協働の可能性も考えていいと思うんです。LIXILのとき、研修から生まれた副業的アイデアに会社として投資したこともありましたから。

そんな会社を選んだり、副業などの社内制度を活用したり、半分外へ出てやってみてもいいかもしれませんね。

福原:
私たちがお手伝いしているライオンさんでも、徹底して副業を進めていらっしゃってますね。社外での経験が本業でも活かされることも多いようです。安定とリスクの取り方としてバランスがいいですよね。そうした制度すらない、新しいことへの重力も強い、という組織なら辞めるしかない、という八木さんのお話も納得できます。

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ライオン株式会社のGROW360導入事例はこちらから

八木:
そうですね。ただ、短絡的に辞める前に一度TOPの方に提案してみるのもいいかもしれません。今は柔軟な考え方の方も多いですし。もちろん中間層にはリスクを回避するタイプの方が多いのかもしれませんが。

そう考えると、社内で生まれた面白いアイデアを上にあげるプロセスや制度を整えることも重要ですね。会社の仕組みとして、新しいことを生み出す仕組みについては、ぜひ本日お集まりいただいた方々に考えていただきたいところです。みんなでそんな企業風土をつくっていけるといいですよね。

福原:
変革期においては、人事部がまさに企業戦略の中心になります。戦略人事を本日お集まりの皆さん主導で進めていかれて、組織全体を変えられるようなリーダーシップを発揮していただけたら嬉しいですね。

下田:
はい、名残惜しいところではありますが、時間となりましたので、こちらで対談を終了させていただきたいと思います。八木さん、福原さん、本日はどうもありがとうございました。皆様、お忙しい中ご視聴いただきまして誠にありがとうございました。

 

 

 

 

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