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『DXに強い人・組織づくりの方程式』対談レポート

#DX人事 #DX

2022 年 3月 2 日(水)、書籍「日本企業のポテンシャルを解き放つ―DX×3P経営」出版を記念して、一橋ビジネススクール准教授 藤川 佳則先生とIGS代表福原とのオンライン対談イベントを開催いたしました。

藤川先生が主催されるエグゼクティブ・プログラム「デジタルトランスフォーメーション・フォーラム」で蓄積された知見をもとに、DXの定義をアップデートするフレームワークをご紹介しました。DX最新動向と、自組織の変革にどのように着手すべきか?など、実践的なヒントがちりばめられたイベントの模様をお届けします。

 

 

<登壇者紹介>

fujikawasensei藤川佳則
一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻 准教授
& エクスターナル・アフェアーズ担当
米国 イェール大学経営大学院 客員准教授
(20203-5月、211-6月、221-6
)

一橋大学経済学部卒業。同大学院商学研究科修士。ハーバード・ビジネススクールMBA(経営学修士)、ペンシルバニア州立大学Ph.D.(経営学博士)。ハーバード・ビジネススクール研究助手、ペンシルバニア州立大学講師、オルソン・ザルトマン・アソシエイツ(コンサルティング)、一橋大学大学院国際企業戦略研究科 専任講師、准教授を経て現職。

 

 


福原写真2018-1福原正大
Institution for a Global Society CEO

慶應義塾大学経済学部卒業、欧州経営大学院(INSEAD)MBA、グランゼコールHEC国際金融修士(最優秀賞)、筑波大学博士課程修了。博士(経営学)。東京銀行(現三菱UFJ銀行)、バークレーズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック)最年少マネージングディレクター(MD)、日本法人の取締役を歴任。世界のiShares創設時にMDとして深く関与。2010年IGS株式会社を創設。2016年2月より、人工知能とビッグデータを活用して、採用や企業の組織分析を行う「GROW」サービスを開始。人材・組織データ分析に基づくコンサルティングを複数の大手企業に提供し、「攻めのDX」に向けた組織変革を支援する。経済産業省・一橋大学大学院共同発案「デジタル・トランスフォーメーション・フォーラム」はじめ、DXに関する企業幹部向けの講演も多数。

 

<モデレーター>

PXL_20220117_101243732-1下田 理(モデレーター)
英治出版プロデューサー

1981年福岡県生まれ。
ITコンサルティング企業勤務を経て現職。ソーシャルビジネス、平和構築、組織開発、教育分野の本をプロデュース。『ティール組織』『なぜ人と組織は変われないのか』『私たちは子どもに何ができるのか』などを手がける。日本初のティール組織のカンファレンス「Teal Journey Campus」の開催(2019年)、チームの自律的な進化を支援する「Team Journey Supporter」の設計・開発(2020年)など、書籍編集以外の事業開発にも携わっている。

 

<目次>

DXを紐解く三つのX

3つのXと3Pの共通点

DXにおける日本企業の共通課題

「組織の重力」を越える経営のコミットメント

数値化による腹落ち感のつくりかた

今の時代に求められる本物感

ポストデジタル時代の原体験を

ポストデジタル・ポストコロナ・ポストウクライナの時代

 

 

 

DXを紐解く三つのX

スクリーンショット 2022-04-12 15.15.20下田 理氏

下田:
今後デジタル化していく社会の中で、今後企業は人・組織づくりをどう対応していけばいいのか。これをテーマに藤川先生、福原さんからお話を伺っていきたいと思います。

まずは、米国イェール大学経営大学院の客員准教授として、現地で教鞭をとっていらっしゃる藤川先生、今取り組まれているDXフォーラムの背景や想い、課題意識にはどんなものがあったのでしょうか。本日のテーマである三つのXについてもご紹介いただければと思います。

 スクリーンショット 2022-04-12 15.16.21藤川 佳則氏

藤川:
デジタル・トランスフォーメーションという言葉がバズワード化して数年になりますが、その本質を深く理解するために、2017年頃から準備をはじめて2018年からDXフォーラムとして学位プログラムを開始しました。これまで4376名の方々にご参加いただいています。この参加者の方々との直接対話、学び合いを通じて導き出したものが、DXを紐解く三つのX、すなわちCX(顧客体験)、EX(企業変革)、SX(社会変革)です。

スクリーンショット 2022-04-12 15.14.30-1

CX(顧客体験)を本気で変革していこうとすると、組織の在り方や企業としての仕事の進め方も結果として変わっていくEX(企業変革)が起きる。またその変革の先に、どういう世界を目指すのかという部分に共鳴する仲間を集めていくSX(社会変革)が必要不可欠になっていくわけです。

DXフォーラムは、IGSの福原さんや皆さんにも協力いただきながら、3ヶ月の集中型で学んでいただくプログラムとして構築しました。普段の仕事や業務と直接かかわりがないような方々と、どれだけ腹を割って話せるネットワーク(ウィークタイズ)を構築できるかが今後リーダーに求められると考えており、この関係性をつくっていくことをフォーラムの目的としています。

ただ学んで自社に持って帰るだけではなく、その後トップマネジメントにプレゼンテーションしていただき、そのフィードバックをもらった上で、さらにメンバー全員で学びを深めて終える、というプログラムになっています。

三つのXというものはこの活動の中から導き出したのですが、福原さんの著書で触れられている三つのPというものと非常に関係が深い。
ぜひ福原さんからもお話を伺い対話を進めていければと思います。

 

 

3つのXと3Pの共通点

下田:
藤川先生ありがとうございました。非常に充実したプログラムですね。特に"自分事化"をどうしていくのかっていうところに焦点をあてるところがとても印象的でした。次いで福原さんからも、3つのXと3Pについての関係や繋がりについてもお話いただければと思います。

 スクリーンショット 2022-04-12 15.18.16福原 正大氏

福原:
DXフォーラムは私自身も多くを学ばせていただいているセッションです。参加者の方々が大きく変わっていくのをとても印象的に見ておりました。

今藤川先生がお話いただいたことと私が今回本で書いたこととは、本質的には同じことを言っているなと感じています。全く新しいCXのためにSXが必要という話は、3Pで言えばフィロソフィー、企業のビジョンといったものにあたります。

 

dx_blog20220126_2IGS代表 福原正大 著日本企業のポテンシャルを解き放つ―DX×3P経営(英治出版)より抜粋

福原:
変化が次々と起きている社会の中では企業のビジョンも変化を迫られてくる。すると、そのビジョンをお客様や従業員とも共有するなかでピープルとも関わってきますし、藤川先生のお話の中で出ていた意思決定ということにおいてはプロセスも深く関わりを持ってくるように思います。

また、こうした変革は個別の企業一社だけで完結するものではなく、他社や業界を含めた生態系をつくっていかなければ成り立ちません。つまり未来のビジョンをベースにしたサプライチェーンの構築が求められるわけです。ただし、その際には共有するべきフィロソフィーは何なのか、また共有するべき企業の競争優位性は何なのか、ということも同時に描きながら進めないといけないと考えています。

一度ここまでにさせていただき、藤川先生とのお話や議論を楽しんでいきたいと思います。

下田:
3つのX3Pの共通点を感じ取っていただけたかと思います。実際の所、こうした考え方が企業の現場でどう活かされて、どう実践されていったのか。またもし日本企業に課題があるとすればどういうところにあるのか。この辺りのケースの共有をお願いできますか?

 

 

DXにおける日本企業の共通課題

藤川:
このDX sessionシリーズの前回登壇者の日本郵便・人事部長 三苫倫理さんのお話が、まさにDXフォーラムの考え方の実践ストーリーでしたよね。

福原さんの著書でも書かれているんですが、3つのXの中でもCXというのは比較的変えやすい。ただ、そのHOWを変えていく中でのWHYの部分を考えるときに、非常に大きな壁が社内にも社外にも立ちはだかります。ここにピープルとプロセスとフィロソフィーが関わってくるわけですが、これがほぼ全企業に共通する課題ですよね。DXフォーラムは、その課題に対する各企業の事例を共有する場になっています。

スクリーンショット 2022-04-12 15.16.04

藤川:
例えば、直近スピーカーで来て頂いた清水建設の今木 繁行副社長、モビリティ テクノロジーズの川鍋 一朗会長などのお話を伺っていると、変革の現場で求められているのはエマージェント型リーダーシップ(自然発生的なリーダーシップ)のようなんです。ポジションとしてのリーダーシップではなく、どのように変革のマネジメントプロセスを率いていくのか。ウクライナのゼレンスキー大統領はその典型例だと思いますね。この数日彼の行動を見ていると、いわゆるエマージェント型リーダーシップの一つだと思うんですよね。

 

 

「組織の重力」を越える経営のコミットメント

下田:
日本郵便の三苫さんは前回、「組織の重力」ということを仰っていましたね。そこを突破するためにエマージェントリーダーシップが求められるのであれば、企業側もそれをどう見出し、チャンスを与えていくのかが必要になってくるのかもしれません。

藤川:
「組織の重力」をマネージする難しさについては、GEのジェフ・イメルトさんが「Hot Seat」という書籍でも「大変革に対する免疫反応」として書かれていますね。

下田:
そうですね。人材の特性をどう見つけて、どう伸ばしていくのか。その上で変革への免疫反応にどう対処していくのか。まさに福原さんが実践されていることだと思うのですが、ぜひその辺りご紹介いただけますか。

 

スクリーンショット 2022-04-12 15.17.25福原:
藤川先生も仰っていましたが、私たちが目の当たりにしているウクライナの状況の中で、ゼレンスキー大統領の振る舞いは大きな役割を果たしていますよね。

DXにおいても、経営トップが本質的にDXを理解された上で不退転の決意を発信していくことはフィロソフィーにも関わってくる部分で非常に重要。単なる業務改革なのか、それとも先を見据えたDXなのかをはっきりと経営側が見せないといけません。

前回お話いただいた三苫さんは、人事部長であり会社執行役員としてのコミットメントをはっきりと見せていたわけですね。また、DXフォーラムに自身もメンバーも参加していくことによって会社全体として動いていくという確固たる決意を示されていた。ゼレンスキー大統領も、民主主義に対する確固たる信念のもとに、SNS含め様々なメディアで一貫した発信をされているので国民全体の理解を得られている。ここには共通するところがあるように思います。

→『日本郵便が挑むDX人材育成戦略』イベントレポートはこちらから

 

 

数値化による腹落ち感のつくりかた

福原:
一方、日本企業が成功してきた理由を考えると、過剰なまでの完璧主義がカルチャーの中にあったことが挙げられます。既存の商品を成長フェーズから安定フェーズに移行させるために官僚的な仕組みをつくり、利益を最大化し、コストをそぎ落としていく考え方の徹底。ただしこれがDXの時代においてイノベーションを起こしていこうという時には、逆に乗り越えるべき壁になってしまう。新領域への挑戦、不完全なものや若手など可能性を排除する仕組みとして働いてしまうわけです。ここを乗り越えるために、メンバーに腹落ち感をつくっていくために、経営トップのコミットメントが求められるんです。人は最大の力でもあるので、乗り越えるのが困難な分、そこが変われば大きな変革が生まれてくる。ここを考えていくのが重要ですね。

藤川:
その腹落ち感って、IGSのツールで測れるんでしたっけ。

福原:
そうですね。DXマインドセット可視化ツール・DxGROWの方で数値化できますね。
言葉で腹落ちしない人を、言葉で説得することってやっぱり難しいんです。ただ、日本企業に属している人材の認知レベルは高いので、データを取って数値化して見せると一気に腹落ちが進みます。本人と世の中全体との乖離度合いや、変化を恐れる度合いを数値で見せることで気付きを与えて、本人に自分事化していって頂くというやり方ですね。

→ DX推進に欠かせない人材データの可視化ツール・DxGROWの詳細はこちらから

スクリーンショット 2022-01-18 16.36.53-2DxGROWフィードバックレポートのサンプル

藤川:
腹落ちって暗黙知的な話だから、これまでは感覚的に議論して済ませてきましたが、定量化して数値化すれば捉えられるんですよね。また、数値化しやすくわかりやすいところから第一歩目をはじめて、小さな成功をつくりだした上で仲間を増やして大きなプロセスを進めていくようなDX成功事例も結構あると思うんです。

→DX推進の非公開成功事例について問い合わせる

 

 

今の時代に求められる本物感

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下田:
ありがとうございます。

最近、規制を守ったりSDGsESGという外的な要求に応えるだけではなく、デジタルとリアルを融合してどう新しい社会をつくっていくのかという視点が、企業に求められるようになってきたのではないかと感じているのですが、今の時代のリーダーたちがどういう意識を持っているのかについて、お話を聞かせていただきたいと思います。

藤川:
この2年間で、地球の一人ひとりが地球市民である、という目覚めがあったように思うんです。世界中のどこかで起きたことがその日のうちに自分自身の日常に影響してくる体験を、2年間毎日のように経験してきているわけですよね。そんな時代に経営者として自分の価値観を発信していく際には、飾っている言葉ではなく自分の本心からの言葉かどうか、信憑性を問われているように思います。

また、XYZという世代で考えていくと、今まで以上にデジタル、グローバルを当たり前だと認識している世代が私たちのお客様であり、仲間であり、競合他社になっている環境であることを考える必要がありますね。

福原:
本物感については共感しますね。私も大学で学生と話をするんですが「あの会社嘘っぽいですよね」という言葉を聞いたりするんです。表向きに発信している内容と、SNSなどを通して感じる実態との間に乖離があるのを感じる企業が結構あるようなんです。DXビジョンとかその裏にある価値観が、会社全体に本当に浸透しているのかといったことも、学生たちは見て感じているわけですね。今後企業は文化のレベルまでを含めた変革を目指せなければ、今の時代を越えていけないのではないかと感じています。そのためには経営陣はもちろん、社員一人ひとりが本質的な価値観を共有して持っておかないと難しい

→経営層から一般社員まで幅広くカバー。DX人材データの可視化ツール・DxGROWの詳細はこちらから

 

 

ポストデジタル時代の原体験を

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藤川:
DXでよく言われるのが「オープンイノベーションごっこ」とか「PoC祭」とか「SDGsバッジ」とかあるじゃないですか。表面的なポーズだけでやっているかのような錯覚に陥ることが。本物感がないと、それが見て取れちゃいますよね。たとえばオープンイノベーションもセンターつくりましたっていうだけでは足りないし、実証実験をいくつやっても結局本当の事業になかなかならないし。最初からきちんとコミットして物事を進めていくべきなんじゃないか、と思うんです。もちろんできることからやるというのは大事なんですが、表面的にやってそれで満足してしまう状態は気をつけないといけない。

たとえばDXが大事だって言っている本人が、一切何のアプリケーションなりモバイルデバイスを使いこなせてない状態には問題があると思いますよね。ポストデジタルな社会における日常を生活者の目線で捉えること、そしてその原体験をもっと増やさないといけないと考えられているかどうかがが経営者としても大事なことだと思うんです。

福原:
同感です。VR、AR、あるいはインスタをやっていない人が、それを否定するのを見て、私は不思議でしょうがなくて。知りもしないのに否定している方は、思考の停止だなって思いますよね。

藤川:
うん。DXフォーラムでは、福原さんにご協力いただいてプログラミングのキャンプもカリキュラムに取り入れているのですが、たとえば毎日コーディングを実際にはしないにしても、プログラミングがどういうことなのかを体験しておくことは大切ですよね。コピペでもいいからPythonでのコーディングを自身でやってみてスクリーン上で動かしてみることで、一連の作業の価値が理解できる。あるいは、そういうことが大事だと尊重できるような姿勢が、DXのプロセスでは求められるんじゃないでしょうか。今日のタイトルのDXに強い人、組織ってのは、そういう組織なんじゃないかなと思うんですよね。

 

 

ポストデジタル・ポストコロナ・ポストウクライナの時代

下田:
ありがとうございます。最後に一言ずつ、DXに関心を持たれている参加者の方々に向けて、メッセージをいただけますか。

藤川:
やっぱり今このタイミングで考えると、ポストデジタル、ポストパンデミックだと思うんです。

私たちは今や当たり前に24時間365日デジタル環境の中で生きてるわけです。だから、非デジタルなリアルにデジタルを付け加えるのではなく、デジタルの中にいかにリアルな良さを活かすのか、という順番で考えるポストデジタルの発想を大事にしてほしいですよね。

もう一つ、世界中のあらゆる人々が瞬時に影響を受け合うというポストパンデミックの2年間を過ごしてきて、今後のDXはそれを前提としてこれまでとはまた次元の違うものになっていく。段階が上がるのか、先に行くのかわかりませんが、ポストデジタル、ポストパンデミックのDXを皆さんと一緒に考えることができたらいいなと思っています。

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福原:
今私たちが直面しているウクライナの問題も大きな影響を与えると思うんです。ですので、藤川先生が仰ったポストデジタル、ポストパンデミックと同時に、ポストウクライナの時代を地球市民としてどう捉えなおすのか。バーチャルリアルにまたがっている世界を個人として企業としてどう捉えなおすのかということを考えていければと思います。

下田:
はい、藤川先生、福原さん、本日はどうもありがとうございました。では以上にて本日のオンラインセミナーを閉会とさせていただきます。皆様お忙しい中ご視聴いただきまして誠にありがとうございました。

 

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