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360度評価から始まる、「人」を重視した経営とは

#GROW360 #データドリブン人事

目次

・注目を集める人的資本経営と、求められるデータ開示
・人的資本データの一端を担う、360度評価データ
・事例:全社員を対象にした、360度評価
事例:上司1人に依存せず客観性を高めるための、360度評価
事例:キャリア自律を推進するための、360度評価
360度評価に対する懸念と今後の展望

 

 

注目を集める人的資本経営と、求められるデータ開示

 突然ですが「人的資本経営」という言葉をご存じでしょうか?

 今年になって、日本経済新聞などのメディアで取り上げられることが増えていますので、聞いたことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。これは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方を指す言葉です。

 株式市場では、人的資本経営がどのくらい行われているかにより、企業の成長性やリスクを見極めたいとのニーズが高まっており、人的資本に関する上場企業の情報開示は、米国ではすでに義務化されています。日本でも開示基準づくりのために、内閣官房、経済産業省、金融庁などで活発に議論が行われている最中です。

 経済産業省では、「価値向上」と「リスクマネジメント」との区分をした上で、育成、流動性、ダイバーシティ、健康・安全、労働慣行、コンプラアンス・倫理といった開示項目の例が挙がり、価値向上については、「育成」にトップのウェイトが与えられています(※1)。

 要するに、「人」に適切に投資し、人材と組織のポテンシャルを引き出すことで、業績をあげる経営が、これからは強く求められるという事です。特にこれからのSociety5.0時代では、人材が益々、希少かつ重要な資本になっていく、という背景もあり、注目が集まっています。

※1:日本における規定開示項目は、2022年夏に示される予定。岸田内閣の新しい資本主義の重要項目として注目されています。



 

人的資本データの一端を担う、360度評価データ

 さて、360度評価とは、上司だけでなく同僚、部下など様々な立場の人から評価をもらうものです。古くは1970年に神戸製鋼所で、管理職および管理職候補の能力開発を目的に行われたとの記録(※2)があり、決して新しいトピックではありません。ただ、人的資本経営へのニーズが高まるとともに、360度評価を継続的に実施する企業が増えていくと考えられます。

 人的資本の情報開示の国際的なガイドラインとして有名なものに、「ISO30414」があります。このISO30414では「能力・スキル」領域で、コンピテンシー(能力)評価を行うことを定めています。コンピテンシー(能力)は、仕事成果をあげるための行動特性ですので、客観的な能力測定手段が求められており、「360度評価」への注目度は増していくと予想されます。先の経済産業省での議論でも「育成」が重視されていることから、能力開発とそれに伴う能力測定が、セットで進展していくでしょう。

 当初は、管理職の評価ツールとして認識された360度評価ですが、現在では、下記のように全社員を対象にした事例も知られています。

※2:引用 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaas1986/14/2/14_2_67/_pdf

 



 

事例:全社員を対象にした、360度評価(※3)

・業績評価(昇給や昇進)に活用するもの及び中長期的にキャリアを考えるものを年度ごとに1回実施。全社員が対象。(M 社)

・自身と他者の認識のギャップに気付き、改善を促すものは、上司からのニーズが出された時等に応じて実施。全社員のうち年間5名程度が対象になる。(M 社)

・多面評価を導入する前は、人事評価では評価者間のズレや偏りが生じ、人事評価の結果を人材育成に生かすことができない状態が続いていた。そこで、評価される本人が納得できることと、フィードバックにより強み・弱みに気付き、自己成長に繋げることを実現するため、2003 年から多面評価を取り入れることになった。(S 社)

・導入時は人材育成ツールとして、対象を管理職階層にしていたが、効果が確認できたため、5年後の 2007 年にはパート・契約社員も含めた全社員に拡大した。全社員には社長・役員も含まれている。(S 社)

※3:出典 内閣官房HP「民間企業における多面観察の手法等に関する調査業務」よりhttps://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/kanri_kondankai/index.html
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/kanri_kondankai/pdf/h300606houkoku.pdf

 

 事実、弊社においても実に様々な企業から、社員のポテンシャルを引き出す適材適所の実現や、社員が目指す姿から逆算した能力開発の実現、社員への投資の妥当性を示す人的資本ROI(Return On Investment:投資収益率)の測定などを見据えた360度評価の実施に関するご相談が寄せられています。

ここからは先行して、人的資本経営に向き合おうとされている企業の具体的な活用例もご紹介します。



 

事例:上司1人に依存せず客観性を高めるための、360度評価

 あるコンサルティング企業では、上司が変わると評価も変わるという実情を鑑み、上司のみに依存しない評価項目を追加すべく、360度評価を導入しています。

 導入当初こそ、上司評価と360度評価結果とのGAPのフィードバックに苦労していましたが、上司も把握しきれていない強みや課題として、相互に目線合わせや今後の能力開発について議論できるようになって来ています。

 評価において不正が行われるのでは、との心配が表明されたこともありましたが、評価の意義や適切な評価方法を発信し続けることで、これに対応しました。最終的には、社員の能力開発や自己実現につながる施策であることが理解され、継続的に実施されています。



 

事例:キャリア自律を推進するための、360度評価

 あるグローバルな製造業の企業では、社員にキャリア自律を促す施策の一環として、360度評価を導入しました。キャリアを考える上で、自分が目指す姿をはっきり描くことは何よりも重要ですが、一方で自身の強みや課題を客観的に理解することも求められます。

 この企業では、個人の結果を社内の同じグレードの平均と比較することで、自身の強み弱みを知っていただく。さらに、あるポジションで活躍するためにはどういった能力水準が求められるのかを発信することで、社員自身が、伸ばしたい能力は何か、を明らかにできるような環境づくりを進めています。

 キャリアを自律的に考えるために、上司の支援も重視しており、360度評価を行った後に必ず、上司と部下が1on1で話し合うことになっています。上司が意見を伝える場ではなく、360度評価の結果を本人が読み解き、目指すキャリアを踏まえてどの能力を、どのように開発しようとしているのか、考えを深めるためのサポートを行うのが、上司の役割です。

 導入当初はぎこちなかった上司からのフィードバック(1on1)ですが、様々な成功事例や失敗事例を会社全体で共有して促進しており、部下の満足度は90%以上、とのアンケート結果も出ています。

 現在は、受講者の能力変化を基に、様々な学習コンテンツ(外部研修やe-learningなど)を評価し、より効果的な育成施策を社員に提供できるよう取り組んでいます。



 

360度評価に対する懸念と今後の展望

 ここまで、360度評価のポジティブな面についてお伝えしてきましたが、一方で、現場から様々な懸念が表明される場合があることも事実です。例えば、評価者に誰を選ぶかによって、評価の良し悪しが変化するのではないか?人によっては、適切に評価できないのではないか?お互いに評価しあうことによって、関係性が悪化してしまうのではないか?といった懸念です。

 人が人を評価する以上、公正さには常に課題がつきまといます。技術的な側面で言えば、今では評価がパソコンやスマホで行われることにより、評価行動をデータ化し、AIによって評価結果を補正することが可能となりました。

弊社の360度評価ツール・GROW360では、行動経済学の理論に基づいて、評価基準、評価姿勢、評価能力、評価背景といった幾つかの観点から、評価者の行動がどの程度、適切なのかを見極めようとしており、単純な平均値ではない、評価結果算出の仕組みが作られています。

GROW360では、この仕組みにより、最低3名の評価で充分客観的な結果が得られるようになっています。

 

360度評価システム『GROW360』なら

●独自のアルゴリズムで評価者の能力依存を下げる仕組み

●上司への忖度、部下・同僚への配慮などのバイアスを取り除く

●社内だけでなく、他社の人材データとの比較が可能

→360度評価ツール・GROW360について詳しく知りたい

 

 一方、技術だけでは解決できない側面もあります。本人にとって納得感のあるものにしつつ、第三者の目を入れて公正なものにする評価者選定のプロセスや、評価者のモラルハザードを防ぐための教育、評価を受ける本人にとってのフィードバックの意味理解、など、組織の中での取り組みを進めていく必要があるでしょう。

 360度評価という形式に限らず、人は社会の中で、周囲の人々からの様々な評価とフィードバックを受けています。ときには納得できないフィードバックもありますが、「なぜこうなったのだろう」と考えるところから、進化や成長が始まることがあります。今後、人、チーム、組織を成長させていく上で、共に働く周囲のメンバーからのフィードバックは欠かせません。フィードバックのある組織と、ない組織で、どちらが人材の成長のスピードが速いか、答えは明らかでしょう。人的資本経営の進展とともに、今後、全社員を対象とした360度評価の導入は広がることが予想されます。

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全社で360度評価を導入するライオン株式会社の事例はこちらから

 

この記事の著者:

tsuchimotosan土本晃世
IGS(株)執行役員 HR事業部長/東京理科大学大学院イノベーション研究科 技術経営修士
東京外国語大学外国語学部を卒業後、総合電機メーカーに新卒入社、海外マーケティング、法人営業を経て2006年、人事系コンサルティング企業に入社。13年にわたり、製造業を中心とした大手企業向けの人材・組織開発プロジェクトに200件以上、携わる。

次世代経営人材の選抜と育成、人材開発体系再構築、評価制度改定、組織風土改革等のコンサルティング経験を経て、2019年よりInstitution for a Global Society株式会社に人事責任者として参画。2020年4月より国内HR事業の責任者として、日系大手企業のDX推進を人と組織の側面から支援するプロジェクトを多数担当している。
東京理科大学オープンカレッジ「人材マネジメント入門」講師。技術経営修士。



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