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人的資本経営が、人事に求めることとは?~「心理的安全性」を活用した人的資本の向上事例~

人事データを活用した人事評価や育成、ジョブ型雇用の支援を行っているInstitution for a Global Society株式会社(IGS)が、2022年12月14日に、「人的資本経営が、人事に求めることとは?~『心理的安全性』を活用した人的資本の向上事例~」をテーマに、セミナーを開催しました。

セミナーでは、IGS執行役員 HR事業部長の土本晃世による「人的資本ROI向上のためのポイントと人事部門に期待される役割」、株式会社ZENTech代表取締役石井遼介氏による「生産性向上に寄与する心理的安全性の重要性」、株式会社タムラ製作所 人事総務本部 働きがい推進グループの浅井遥氏による、人的資本経営に深く関わる取り組み事例についての講演が行われました。

 今回は、このセミナーの模様をご紹介します。

 

■目次

人的資本とは、一体何なのか

人的資本ROI向上のためのポイント

人事部門に今後、求められること

なぜ心理的安全性や人的資本が大事なのか

個人の幸福度と、チームの心理的安全性

タムラ製作所の心理的安全性施策

チームの心理的安全性に影響を与えるマネジメント行動特性指標と、行動変容を促すための取り組み

 

 

 

■人的資本とは、一体何なのか

IGSの土本からは、「人的資本ROI向上のためのポイントと人事部門に期待される役割」について紹介しました。 

2022年に一気にバズワードになりましたが、人的資本は、人材の能力と定義されています。企業も、人材をコストではなく、投資によって価値を創造していく「資本」として捉えてきています。そして、企業価値に繋がる人的資本に影響を与える項目が、従業員のハピネスです。その中で、「心理的安全性」が特に注目されています。

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(セミナー当日資料:土本晃世 作成)

 

 

■人的資本ROI向上のためのポイント

数年前から、政府の方針により、企業価値と人的資本の関係性(人的資本への投資や戦略)を投資家に示していくことが必要になっています。そのため、企業は、人的資本への投資が企業価値向上(ROI)にどのように繋がるかを意識していかなければいけません。そのROIの算出をする上で、①ISO,SASBなどの世界標準、②伊藤レポートなどの国内規制ガイドライン、③企業競争優位を基礎とした独自ストーリー、④リスク管理の4つの観点で行うことが重要となります。これは企業にとって大きなターニングポイントとなります。というのも、人的資本への投資という社内での取り組みと株式市場の情報活用が連動していき、定量データでPDCAを回すことが必至になるからです。

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(セミナー当日資料:土本晃世 作成)

スライド15

(セミナー当日資料:土本晃世 作成)

 

 

■人事部門に今後、求められること

この状況を踏まえると、人事の役割・責任は、これまで以上に大きくなります。①自社のパーパスや戦略に沿った人的資本を調達できているか②人的資本を100%、活用し価値を生む環境を整えているか③人的資本の陳腐化を防ぎ、アップデート出来ているかに責任を持っていくことになります。

それゆえ、これまで定性的に語られがちだった「組織風土改革」の成果を定量で示す必要があります。まずは、組織風土の現状を定量的に把握できているか、次に様々な施策によってどんな変化がおきたのか、そして人的資本、企業価値への影響を定量的に計測することが今後求められていきます。

 

 

■なぜ心理的安全性や人的資本が大事なのか

続いて、株式会社ZENTech代表取締役・書籍『心理的安全性のつくりかた』著者の石井氏からは、「生産性向上に寄与する、心理的安全性の重要性」ついてお話しいただきました。

 

「心理的安全性」は地位や経験に関わらず誰もが率直な意見・素朴な疑問を「お互いに」言い合うことができる状態で、人的資本経営を実現する上でも重要な土壌・土台となります。

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(セミナー当日資料:石井遼介氏 作成)

 

変化が激しく正解がない時代においては、トップのリーダーシップのみで成果をあげつづけることは難しく、チームの力を最大に引き出す必要があります。メンバーの多様な視点・意見を持ち寄り、チームとして挑戦し試行錯誤し軌道修正しながら前に進むことが不可欠になるため、心理的安全性が大事になってきます。

 

よくある誤解ですが、心理的安全性がある組織・チームは意見を言っても挑戦しても安全だが単なる「仲良し組織」ではありませんし、率直に「言い合える」が決して仲が悪い組織でもありません。仕事の基準が高く、心理的に安全な組織・チームでは、健全な意見の衝突があり、成果・パフォーマンスが高くなります。これを「学習する職場」と名付けていますが、こうした組織では①サポート②意義③みかえり(感謝・承認)④配置(適材適所)といった要素が、メンバーの努力の源泉になります。

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(セミナー当日資料:石井遼介氏 作成) 

 

 

■個人の幸福度と、チームの心理的安全性

「チームの心理的安全性」は①話しやすさ②助け合い③挑戦④新奇歓迎の4つの因子から構成されています。心理的安全性を計測するサーベイSAFETY ZONE®を使って、この4つの因子と、慶應義塾大学の前野隆司先生が研究されている「幸福の4因子」をかけ合わせて分析を行なってみましたが、以下のことがわかっています。

・チームの心理的安全性と幸福の4因子はどの組み合わせでみても少なくとも逆相関ではない。

・仕事の基準が高い方が心理的安全性、特に挑戦・新奇歓迎因子が高い。

・仕事の基準のばらつきが低い方が、心理的安全性が高い。

・心理的安全性と仕事の基準が高い方が、イノベーション行動が多いスライド48

(セミナー当日資料:石井遼介氏 作成)  

 

 

■タムラ製作所の心理的安全性施策

最後に、株式会社タムラ製作所 人事総務本部 働きがい推進グループ浅井氏からは、人的資本経営に深く関わる取り組み事例についてお話いただきました。

タムラ製作所の社員は、「働きがい改革」を推進する上で、3つのことを期待されています。1点目は、上司・部下間、他部署間で「双方向」にコミュニケーションが行われること。2点目は、新しいことに挑戦し続ける「健全な野心」を持つこと。3点目が、社員一人ひとりが「高みを目指す」ことです。これら3点の土台となるのが、『話しやすさ』や『助け合い』といった心理的安全性です。

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(セミナー当日資料:浅井遥氏 作成)

 

心理的安全性施策に関しては、組織開発と人材開発の2つの観点で行っています。

組織開発では、まず組織開発ワークショップを半年ごとに実施するとともに、株式会社ZENTech様のSafety Zoneを活用して組織サーベイを定期的に行っています。

人材開発としては人事評価項目に心理的安全性の観点を取り入れるほか、Institution for a Global Society株式会社様のGROW360を活用して、マネージャーの行動を可視化し本人にフィードバックを行っています。また構想中ではありますが、チームの心理的安全性に影響を与えるマネジメント行動特性に特化した人材開発研修を検討しています。 

 

 

■チームの心理的安全性に影響を与えるマネジメント行動特性指標と、
  行動変容を促すための取り組み

マネジメント行動は、直接的には「チームの業績」に好影響を与えない事が分かっています。当社ではマネジメント行動は「チームの心理的安全性」に影響を与え、「チームの心理的安全性」が「チームの業績」に好影響を与えると見立て制度設計を行っています。つまり、チームの業績を高めるためには、チームの心理的安全性に良い影響を与えるマネジメント行動が大切になります。

そこで、当社内でチームの心理的安全性に良い影響を与えるマネジメント行動について、Safety ZoneとGROW360の結果を分析し、「行動特性」として特定しました。それは、「ヴィジョン」「表現力」「共感・傾聴力」「柔軟性」「決断力」「組織への働きかけ」の6つでした。

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(セミナー当日資料:浅井遥氏 作成)

 

マネジメント行動の変化を促すための取り組みとして、GROW360等に基づいて、フィードバックシートを作成しています。また心理的安全性の高いチームリーダー・マネージャーを対象にインタビューを実施し、GROW360により定量的に導き出した6つの行動特性から、実際に発出している定性的な「具体的アクション」へ掘り下げています。またその内容を社内のポータルサイトで公開しています。

Safety Zoneを活用した組織サーベイでは、初めて調査を行った2020年と2021年を比較すると①話しやすさ②助け合い③挑戦④新奇歓迎のすべての因子が向上しました。また心理的安全性の欠如によるものと思われる退職事由の割合も下がっており、施策の効果が出てきているかと思われます。

 

プロフィール

石井遼介氏

 

株式会社ZENTech代表取締役

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究員
一般社団法人 日本認知科学研究所 理事
東京大学工学部卒。シンガポール国立大 経営学修士(MBA)

 行動分析学の研究者として、チーム・組織のパフォーマンスを科学し、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進するとともに、日本の組織・チームに於ける心理的安全性の計測尺度を開発。2017年よりオリンピック委員会 強化スタッフ(医・科学)も務めた。
著書に『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会 マネジメントセンター)、監修書に『心理的安全性をつくる言葉55(飛鳥新社)がある。

 

浅井遥氏

 【タムラ製作所】浅井

株式会社タムラ製作所 人事総務本部 働きがい推進グループ

2007年株式会社タムラ製作所入社。新卒入社以降10年以上にわたり、人事業務に従事し、人事システムの開発から業務自動化まで経験し、2022より現職。心理的安全性の社内浸透に向けても尽力中。

タムラ製作所さまの「マネジメント改善事例」は以下でもご紹介しています。
客観的なデータ活用により仮説を裏付け。GROW360で組織マネジメント改善に着手。

 

土本晃世

member-tsuchimoto 

Institution for a Global Society株式会社  執行役員 HR事業部長

東京理科大学大学院イノベーション研究科技術経営修士
東京理科大学オープンカレッジ「人材マネジメント入門」講師 

東京外国語大学外国語学部を卒業後、総合電機メーカーに新卒入社。海外マーケティング、法人営業を経て2006年、人事系コンサルティング企業に入社。13年にわたり、製造業を中心とした大手企業向けの人材・組織開発プロジェクトに200件以上、携わる。
2019年よりInstitution for a Global Society株式会社に人事責任者として参画。20204月より現職。

 

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