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55万人のデータからAIが明らかにした、人事評価の落とし穴とは?

#コンピテンシー #GROW360 #イベントレポート #評価

2020年11月18日(水)に開催された「HRカンファレンス2020」にて、Institution for a Global Society株式会社(IGS)の代表・福原が講演を行いました。

新型コロナウイルスの拡大によってリモートワークが急速に普及し、顔の見えない働き方、顔の見えない人事評価が進んでいる中、本当に正しく評価ができている企業はどのくらいいるのでしょうか。

今回の講演では「55万人の評価データから分かった、評価の落とし穴:AIで解ける問題・解けない問題」というテーマを掲げ、累計55万人の評価データをAIが分析して明らかになった評価の落とし穴と対策について紹介しました。

 

■人間が行う評価の難しさ

 

講演の冒頭、まず福原は「会社での評価に満足しているか」というアンケートを参加者の方々に対して投げかけました。その結果は「はい」が52%。つまり、約半数しか現状の評価に納得していない、という状況が明確になりました。

【図】アンケート結果グラフ1(会社での評価に満足しているか アンケート結果/セミナー参加者62名が回答

組織における「評価の正当性」は、社員のエンゲージメントを大きく下げうる、最大の不満足要因ですが、人間が行う以上、完全に公正な評価は難しいものです。「長年在籍しているから」「遅くまで残業しているから」といった、「なんとなく」での評価は、もちろん公正とはいえません。

 

では、昨今ニーズが高まるAIであれば、公平で客観的な評価が可能なのでしょうか。しかし、AIは評価データがなければただの計算機に過ぎず、評価時代は人間が行う必要があります。「何をもって、どのように評価すべきか」が企業人事における課題になっています。

 

■Society5.0時代はコンピテンシーが重視される

 

「Society5.0時代」では体験やサービスが重要な価値を持つようになります。いい製品を作っただけでは消費者は満足してくれず、モノづくりからコトづくりへとパラダイムシフトが起こっています。

 

モノづくりからコトづくりへの変化に伴って、求められるスキルセットも変わっていきます。特に重要性が高まるのは「コンピテンシー」です。

【画像】人の社会や企業における能力とは?(セミナー当日資料:福原正大 作成)

コンピテンシーとは、「課題設定力」「解決意向」「想像力」などの「行動の特性」を指すものであり、イノベーションとの関連性も研究によって実証されています。ですが日本は伝統的にモノづくりを重視してきたため、多くの企業はコンピテンシーを適切に評価してきませんでした。

 

しかし現在、新型コロナウイルスの拡大によって「Society5.0」へのシフトは加速し、コンピテンシーの重要性も高まっています。新型コロナウイルスによって社会や経済に甚大なインパクトがもたらされているのは事実ですが、リモートワークやオンラインのセミナーが急激に一般化したように、今までデジタル化に出遅れていた日本企業も海外企業と同じスタートラインに立てた、という側面もあります。

 

既存の価値観や社会構造が刷新されるニューノーマル時代において、「コンピテンシー」は汎用的な能力としてますます重要性を高めていくでしょう。

 

■360度評価は落とし穴だらけ

 

野村総研とオックスフォード大学によれば、日本の49%の仕事が「理論的」にAIやロボットに置き換わるとされています。「理論的」というのは、経済合理性がなかったり、規制等によって自動化できない仕事であっても、本来は置き換えが可能ということを意味しています。また、個人のスキルの陳腐化スピードも加速し、一つのスキルが価値を生み出す期間も40年から4.2年へと短命化していきます。

 

つまり、汎用的能力であるコンピテンシーの重要性が相対的に高まっていくわけですが、ペーパー試験での測定や開発が容易なスキルと違って、コンピテンシーは「課題設定力」などの抽象的な能力になるため、格段に測定が難しくなります。

 

では、どのようにしてコンピテンシーを測るのでしょうか。その答えは、多くの論文によって証明されているように360度評価です。

 

ここで福原は、再び参加者の方々に対してアンケートを実施。「360度評価を実施していますか?」という問いに対し、「いいえ」と答えた人たちは61%。約40%の参加企業が360度評価を行っているということになりますが、それでも「正しく」360度評価を実施できているかどうかはわかりません。

【図】アンケート結果グラフ2-1(「360度評価を実施していますか?」 アンケート結果セミナー参加者61名が回答)

福原は、「実は360度評価も問題だらけ」と語ります。よくある例が、「点数が高すぎる」というもの。「若い世代に厳しい評価をしたくない」という人もいるかもしれませんが、それは本人にとっていいことではありません。逆に、誰に対しても厳しすぎるというのも問題です。また、点数のバラツキが大きすぎてもいけませんが、バラツキがないということは丁寧に評価していないこということでもある…。このように、実は360度評価は危険性を孕んだ評価方法でもあるのです。

【画像】360度評価も問題だらけ

(セミナー当日資料:福原正大 作成)

また、360度分析には別の側面の問題も存在します。例えば、認知能力については、マネージャーは部下を低く評価する傾向があります。また、年長者は若者に比べて「成長余力が少ない」「想像力は劣る」などのバイアス越しに見られることもありますが、データによれば何歳になっても想像力は伸びることが明らかになっています。

 

360度評価とはいえ、人間が行う以上、どうしてもバイアスはかかってしまいます。そこで最高の働きをするのがAIです。IGSが提供する能力分析サービス「GROW360」は、IGSが東京大学との共同研究で開発したAI評価バイアス補正システムを搭載しており、性別や年齢などの差別要因ファクターを考慮し、正しい評価へと補正することが可能です。

 

「GROW360」には評価者を評価する仕組みがあり、「質問に対して十分な時間が取られていない」「スキップ(評価のパス)が多い」など、評価そのものの「質」も浮き彫りになります。また、評価者向けの傾向分析レポートやVOD教材といったトレーニングも用意されています。

 

整理すると、360度分析を実施する際にはAIによってバイアスを補正し、評価者のトレーニングを行った上で、コンピテンシー能力を評価することが重要だということが言えます。

 

■両利きの経営でデジタル・トランスフォーメーションを実現

 

企業がデジタル・トランスフォーメーションを推進していくために、福原は「両利きの経営」という考え方を紹介しました。

 

組織が進化するには、「既存事業を強化する能力」と、「新規事業を創出する能力」の能力が必要です。「両利きの経営」とは、これらの相反する能力を両立させることですが、それぞれの能力では必要な人材やKPIなど、何もかもが違います。

 

一例として、日本企業がイノベーションを起こせていない理由を考えてみましょう。その答えのひとつには、リスク回避姿勢の強いマネージャーが多いことが挙げられます。しかし、イノベーションにはリスク積極姿勢が必要であり、リスク中立で新規事業に取り組んでもイノベーションは起こせません。つまり、リスクに対するコンピテンシーをしっかりと評価しなければ、「両利きの経営」は成り立たず、イノベーションにはつながらないのです。

 

■AIで人と組織を変えていく

 

企業に入社した全員が一斉に同じ教育を受ける時代は終わりに向かっています。そこでIGSの「GROW360」では、シミュレーターから意思決定パターンを抽出し、AIで個別化されたカリキュラムを提供しています。

 

AIは有益なツールである一方、社員の成長を支援する仕組みを作り、応援する=動機づけを行うのは人間にしかできない仕事です。特に20代の若手社員に対しては、より丁寧に1on1を実施することが必要だと福原は語ります。

 

DX部などの組織を作っただけでは、デジタル・トランスフォーメーションは実現できません。もっとも重要なことは、一人ひとりのマインドセットを変えることです。そのためには、データとAIをもとに人事・組織戦略を策定していくことが求められます。

 

最後に福原は、新型コロナウイルスによって世界中の国々が同じスタートラインに立った状況に触れ、「GROW360」のユーザーの方々と一緒にイノベーションを起こしていきたいと締めくくりました。

 

■プロフィール

Institution for a Global Society株式会社【画像】福原社長
創業者CEO 福原正大
 
慶應義塾大学経済学部特任教授
<最新テクノロジーのビジネス応用, People Analytics, FinTech>
 
・東京理科大学客員教授
・経済産業省クリエイティブ人材育成特別委員
・東京都教育庁新国際高校創設委員

 

慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。企業留学生として、INSEAD(欧州経営大学院)にてMBA、グランゼコールHEC(パリ)にてMS(成績優秀者)、筑波大学博士(経営学)を取得。その後、世界最大の資産運用会社 Barclays Global Investors に入社し、Managing Director、日本における取締役を歴任。

2010年、グローバルに活躍する人材の育成を目指して、Institution for a Global Societyを創業。

2016年~、企業向けに、AI×ビッグデータで人材マネジメントを支援する事業を開始。

主な著書に『ハーバード、オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』(大和書房)、『AI×ビッグデータが「人事」を変える』(朝日新聞出版社)、『なぜ、日本では本物のエリートが育たないのか?』(ダイヤモンド社)など。