トップへ

伝統企業によるDXのポテンシャル 〜日本郵便の最新事例から〜

#イベントレポート #人材育成 #DX人事 #DX

2022 年 1 月 17 日(月)、「日本企業のポテンシャルを解き放つ―DX×3P経営(英治出版)の出版を記念し、日本郵便株式会社とInstitution for a Global Society株式会社の対談イベントを開催しました。

著者である IGS 代表 福原が書籍の執筆背景をご紹介するほか、日本郵便が歩んできたDX組織への改革のロード マップを、執行役員人事部長 三苫倫理氏に語っていただきながら、伝統企業のDXによるポテンシャルについての対談をお届けいたしました。

このイベントの模様を前後編の2回に分けてレポートします。
今回は後編として、三苫氏、福原による対談の模様をお届けします。なお、モデレーターは『DX×3P経営』担当編集者である英治出版 下田理氏が務めました。
前編は三苫氏による「日本郵便のDX人材育成戦略」のプレゼンテーションの模様の模様をお届けします。

登壇者紹介

三苫 倫理
日本郵便株式会社 執行役員人事部長

2000年に当時の郵政省に入省し、放送行政などの情報通信事業や郵政民営化に携わったのち、2007年、郵政民営化により発足した郵政グループに入社。全国津々浦々の郵便局で窓口サービスを提供する郵便局株式会社で、経営企画部門マネジャー等を歴任。2017年より日本郵便株式会社郵便・物流業務統括部長として、宅配クライシス、ウィズコロナなどめまぐるしく変動する物流業界でオペレーションの運用・変革に携わったのち、2020年に最年少で同社執行役員、2021年から現職。

 

 

福原 正大
Institution for a Global Society CEO

慶應義塾大学経済学部卒業、欧州経営大学院(INSEADMBA、グランゼコールHEC国際金融修士(最優秀賞)、筑波大学博士課程修了。博士(経営学)。東京銀行(現三菱UFJ銀行)、バークレーズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック)最年少マネージングディレクター(MD)、日本法人の取締役を歴任。世界のiShares創設時にMDとして深く関与。2010IGS株式会社を創設。20162月より、人工知能とビッグデータを活用して、採用や企業の組織分析を行う「GROW」サービスを開始。人材・組織データ分析に基づくコンサルティングを複数の大手企業に提供し、「攻めのDX」に向けた組織変革支援する。経済産業省・一橋大学大学院共同発案「デジタル・トランスフォーメーション・フォーラム」はじめ、DXに関する企業幹部向けの講演も多数。

 

IMG_7107
下田 理(モデレーター)
英治出版プロデューサー
1981年福岡県生まれ。ITコンサルティング企業勤務を経て現職。ソーシャルビジネス、平和構築、組織開発、教育分野の本をプロデュース。ティール組織』『なぜ人と組織は変われないのか』『私たちは子どもに何ができるのかなど手がける。日本初のティール組織のカンファレンス「Teal Journey Campus」の開催(2019年)、チームの自律的な進化を支援する「Team Journey Supporter」の設計・開発(2020年)など、書籍編集以外の事業開発にも携わっている。

目次

1.DXとは「階段を登る」ことでなく、「階段をつくる」こと
2.大企業ならではのDX推進の難しさ
3.DX推進のカギを握る人材のマインドチェンジ
4.DXに欠かせない「リスクをとって失敗」を許容する風土づくり
5.失敗を正しく評価するには
6.「能力の高い人材とお客さまがいる」 伝統企業の圧倒的な強み


DXとは「階段を登る」ことでなく、「階段をつくる」こと

下田:
ここからは二人に、様々なDXエピソードだったり、深掘りしたところを伺っていきたいと思っています。

 三苫さん、人材育成の観点から取り組みをご紹介いただきましたが、個人的に聞いてみたいなと思うのが、福原のお話を聞いた時、鈍器で殴られたような、かつ同時におもしろいと思われたと仰ったポイントです。何かしら御社のビジョンなり、三苫さんのビジョンなりと重なったりしたんでしょうか。

IMG_7102

三苫:
まず私どもの事業とミッション使命について改めて皆様にも共有したいと思います。
シンプルなんです。「全国にある郵便局を通じてお客さまに価値を提供する」。これが私どもの生業です。そして私どものグループの経営理念は「お客さまと社員の幸せを実現しよう。地域と社会の発展に貢献しよう」。これが使命です。

今後私どもが使命を果たすためには、DXは絶対やらなければならない、デジタルが前提となったこの社会では避けて通れません。

 元々私は、リアルとは別にデジタルがあるという、そういう物の見方、考えを持っていたんです。しかし今やデジタルはリアルを包み込んでいる空気や水のような存在になっている、ということでした。それを理解した時に、物事の見方が変わった。これが先程の「鈍器で殴られたような印象」ということです。

また、DXとは、デジタル前提で成長し続けるために組織全体を変革するということなので、これは階段を登ることではなくて、階段をつくることなんだと確信を得ました。成長し続けるためには我々も階段をつくり続けないといけないんですが、私どもがそういう価値を提供し続ける存在になれば、日本という社会全体の価値を向上させることに繋がるんじゃないかと思っておりますし、そう考えるとこれほどおもしろい仕事はないだろうと感じているところです。

IMG_7117-1

 

大企業ならではのDX推進の難しさ

下田:
社会ととても近い事業だからこそ、難しさも可能性もある訳ですね。とはいえ、大企業ならではの難しさや、DXに関して組織の中に抵抗意識があったのか、なかったのか。あったとしたらそれをどう乗り越えてきたのか、伺えますか。

三苫:
郵政事業は1871年に創業いたしました。おかげ様で151年目を迎えたところです。これをポジティブにみれば、歴史と伝統のある企業と言えると思います。また、お客さまに今現在提供している価値の本質は何かと考えますと、郵便・貯金・保険というサービスを郵便局を通じてお届けしていること。これも昔から変わりません。

ポジティブな意味だとこう言えるんですが、一方それだけ歴史があるということは、重いんですよ。既存事業で150年間ビジネスをやってきたことの重みというのが非常に強いと感じます。新しいことにチャレンジしようと飛び上がろうとしているのに、重力が強いのでそもそも飛べない。もしくは飛んだとしてもペタンと地べたに這いつくばってしまう。

IMG_7098

三苫:
前提にある仕事の仕方も、たとえば郵便物を配達するということは昔から変わっていません。150年間変わっていない仕事の仕方というものがまずありますし、様々なソフト面ハード面がそこに最適化されて、全体の仕組みができあがっている。当然そこで働く人の組織風土もそこに最適化されている。これ自体は全然不思議なことではなくて、当然のことなんだと思います。ただし、それが今のDXの側面からいうと強い重力源になっているということです。

 DXを組織全体の変革というのであれば、まさにこの重力に逆らう行為をしなければならないことになります。

DX推進のカギを握る人材のマインドチェンジ

三苫:
結論をいうと全部変えないといけないということになるんですが、やはりその中でもポイントになるのが人材。特に意識の部分が強いと思います。マネジメント層に先行して知ってもらったのは、その意識を変えて欲しいと思ったからです。DXマインドセットの成功事例をダウンロード

三苫:
最先端の技術を身につけてもらう必要はないんですが、少なくとも意識は変わってほしい。だから一過性で止まらせず組織に定着させるために「STEP2」で実行リーダーをつくった。

周りにDXの考え方、組織を変える仕事をする人を増やせれば、実際意識が変わるわけですよね。何事も意識を変えるということが、一番大切で、そこが全てなのかなと個人的には思っています。今後は、これを全国に二万強ある郵便局にどう広げていくかですね。

JPスライド日本郵便のDX人材育成戦略

福原:
三苫さんと日本郵便の様はですね、教科書的に正しいと言われているやり方をしていらっしゃると思うんです。クリステンセン教授も仰っていて、ハーバード・スタンフォードの研究結果からもわかってきていることは何かというと、まず経営層の意識を変えないことには、その会社は長期的に変われないということなんです。

IMG_7125 (1)-1福原:
日本郵政グループをはじめ、うまくいってらっしゃる企業
の特徴は、経営層のマインドを変えて、全社一丸で底上げと文化でDXを進めている、ということです。これを一年とかでやるのは不可能なんですよ。大企業であれば組織も巨大なので5年単位、10年単位で変えていかないといけない。すると、変わった時には本当に驚く光景が見られるんですね。

DXに欠かせない「リスクをとって失敗」を許容する風土づくり

下田:
IGSと日本郵便以外の企業様が、独自でDXをやろうとすると何から始めればいいんでしょうか。また、大切にするべきポイントなどはあるんでしょうか。

PXL_20220117_095214123

福原:
「society5.0」は間違いない世界の事実です。企業のトップは、そこを正しく見ないといけない。たった4社、400万人程度の会社が、日本の全上場企業の時価総額より大きいと。ということは、あらゆる企業が買収対象に入ってくるということですよね。この現実から目を背けないこと。トップのコミットメントというか、時代の正しい認識こそが大切だと思います。

三苫:
DX人材育成は、今はあくまで本社の企画部門で取り組んでいるだけなんです。それに対して、グループの使命がどこで実現されているかというと、全国各地の社員がお客さまへ価値を提供している現場です。

全国に40万人の社員がいますが、その社員にとって手触り感ある形で仕事が変わっていけば、DXを意識しなくても、お客さまに提供できる価値を生み出していける組織になるのかもしれません。そんな未来に、どう繋げていくかですね。

今までわからなかったことが、少し見えてきたという感じが今の正直なところですので、これから私どもが特に強く求められるのはチャレンジをすること。失敗したとしても、リスクをとって失敗を正しく評価する前提でチャレンジをし続けること。これがこれから問われることで、私どもがまさに経営としてそういった意識を強く求めないといけないんだなぁと思っています。

DXバイアスを測定する

 

失敗を正しく評価するには

下田:
失敗を正しく評価するってなかなか難しいですよね。

三苫福原
難しい。

IMG_7072

下田:
やっぱり評価につながると、忖度してしまったりはありますよね。だからこそ、マネジメント層の意識をまず変えることが重要なのかとも思いますが。さて、今回の日本郵便のDXは壮大なチャレンジだと感じるのですが、三苫さんからの視点ではどう見えているのでしょうか。

三苫:
今回福原先生のご本を拝読させて頂いたんですけれども、人材(People)だけでも哲学(Philosophy)だけでも意味がない。やっぱりプロセスのところが、とても大事なんだと思います。

dx_blog20220126_2

IGS代表 福原正大 著日本企業のポテンシャルを解き放つ―DX×3P経営(英治出版)より抜粋

三苫:
実際にオペレーションを変えるというだけではなくて、チャレンジに対する評価が、おそらく私どもが求められているところですよね。そこはものすごく抵抗感の強い領域だと思います。ただ、新しい価値を提供するために変革を起こしていくことは必須。そのためにはマネジメント層へのは働きかけも強めないといけませんし、チャレンジの階数ももっと増やしていかなければ。こうしたことを考えていく際に、福原先生のご本は非常に活用させていただけそうです。


「能力の高い人材とお客さまがいる」 伝統企業の圧倒的な強み

下田:
もう一つ最後にご質問をさせていただければと思います。

伝統的な大企業だからこそ、それほど重力のない中小企業と比べて、逆に良い点はどこだったと考えられていますでしょうか。

三苫:
大企業は大企業でデメリットやマイナスはあるんですけれども、少なくとも私どもは非常に多くのビジネスにつながるリソースを持っている。

全国にある2万4,000の郵便局、毎日3,000万箇所に配られる5,000万通の郵便物。これを実現する物流オペレーション、全国に設置された18万個のポスト。これだけのアセットを使えば、そこになにかしらプラスの価値を生み出すことができる。

 他にはない強み、絶対的な差別的要素は、各伝統企業は必ずひとつはある。そこでDXを実現すれば、充分競争力のある存在にはなり得るだろうなと思います。そこの部分においては伝統企業は、強く高い下駄を持ってるのは間違いないと思います。

IMG_7149

福原:
先程の40万人という日本郵便様の社員数は、ある意味すごい力ですよね。日本のベースの力はやっぱり人材力。各企業の従業員の能力も高いので、DXへの取り組みを通して彼らが変わった時には、大きなインパクトが出てきます。私たちの戦後の成功は奇跡ではなくて、それはこのベース力の強さの証明でもある訳です。意識さえ変えれば日本はもう一回同じことが絶対できるんですね。

society5.0」の主役たるデジタル勢は、リアルとの融合に足止めを受けている状態です。この機会にデジタルを組み入れることができれば、我々は同じような状態を目指せるわけです。もちろん、世界という市場でどういうことができるのかと、視点を広げていく必要はあります。ただ、そのための人材が揃っている、お客様がいらっしゃる、というのは、伝統企業・大企業の圧倒的な強みなんじゃないかと思います。

下田:
ありがとうございます。重力を感じつつ、その中でどう組織を変えていくか、それ自体が貴重なチャレンジだと思いますし、うまくいって欲しいなという風に思っております。

にとって本当にお役に立つ時間であったことを願っています。

未公開の他社事例を知る

サービスについて知りたい・
活用事例を知りたい方はこちら