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DX推進を阻む人材のバイアス~HRカンファレンス2021秋

#DX

20211125日(水)に開催された「HRカンファレンス」にて、Institution for a Global Society株式会社(IGS)の代表・福原が講演を行いました。その講演の様子を、お伝えします。

 

今回の講演では「DXを阻む「人材のバイアス」――DX推進で人事部門が気を付けるべきこととは?」と題し、多くの企業が直面しているDXバイアスについてお話しました。DXは、組織に属する人が無意識に持つネガティブなバイアスに気づき、必要な意識変革に取り組むことから始まります。本講演では、DX推進を妨げるバイアスの可視化、またその対処という観点から、DXを推進する人材育成の鍵をお伝えしました。

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<目次>

・日本企業におけるDX化の課題
 ー自社のDXへの取り組み度合いのアンケート
 ーイノベーションを成す3つのP

・DXの3つの罠/日本企業の現状
 ー1つ目の罠 Philosophy
 ー2つ目の罠 People
 ー3つ目の罠 Process

・罠を乗り越える方法

 

日本企業におけるDX化の課題

日本を含めた世界中でリアルとデジタルが衝突するという事態が起きています。Society5.0時代において、デジタル領域は完全にGAFAに持っていかれましたが、まだ日本企業にも可能性があります。その際、イノベーションに、どのようにデジタル基盤を持ち込むことができるのかがポイントになるかと思います。

ここで、参加者の皆様がどのようにDXをとらえているのか、質問を投げかけたいと思います。

問い:

「自社のDXへの取り組み度合いは、目標とする状態に向けてどの程度進捗していますか?」

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解答結果:

20%程:33

2040%:24

目標とする状態がわからない:33

 

「目標とする状態がわからない」を選んだ方が3割ですね。企業としてDXをどのようにとらえ、どのように設定するのかが明確でないという課題は、私たちがお手伝いしている様々な企業のTOPの方も口にされます。そこで重要になってくるのが、リアルとデジタルのイノベーションです。これをどのように起こせばいいのかについて、説明していきます。

 

イノベーションを成す3つのP

イノベーション研究について有名なのは、先日亡くなられたハーバード大学のクリステンセン教授ですね。彼は、イノベーションは3つのPから成る、と唱えました。まずはPhilosophy。ヴィジョンや哲学と言ったものですね。企業のヴィジョンやカルチャーはどのようなものであるべきなのかを定めること。またイノベーションを成り立たせる他のPは、People(人々)と、Process(仕組)です。

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特にPeopleの部分が、今回お聞きいただいている人事部の皆様に直接的に関わる部分です。たとえば人事制度はProcessとも言えますし、戦略人事と言った話になってくると、Philosophyとも関わってきます。すると、企業のイノベーションに関してコアとなる要素を握っているのが、人事である皆様方になる、ということになるかと思います。

 

 

DX3つの罠/日本企業の現状

 

1. Philosophyに潜む罠:ヴィジョンに沿ったデータは取れているか?スライド19

先ほどお伝えした3つのPが、日本企業がイノベーション・DXを目指す際の要諦であり、私たちは、ここに罠とも呼べる障壁が潜んでいると考えています。私たちが多くの企業様からお預かりしたデータを見ていただきながら、日本企業がどのように3つの罠を越えていけばいいのかについてお話します。

 

多くの企業様とお話すると「データは収集できているが、AIを使って分析する力がない」というお悩みを聞きます。「それは御社の5年後10年後のヴィジョンを達成するためのデータが揃っていらっしゃるということでしょうか?」とお伺いすると、ほとんどの方が固まってしまわれます。

実は多くの企業様がお持ちのデータは、業務効率を改善するためのデータでしかないのです。もちろんこのデータも重要なのですが、業務効率の改善からは破壊的な成果は見込めないのです。

ここで大切なのは、目指すヴィジョン自体を大きく切り替えていくことです。目指す方向性が新たに描かれれば、実現するために求められるデータは足りないものばかりになり、人材データに関しても5年後、10年後に活躍する人材はどういう人だろう、というところまで考えて取得していくことになります。

 

このように、新たなヴィジョンがあればどのようなデータを取得しないといけないのか、そのデータからどのようなインサイトを獲得して、新たな価値を生みだしていくのかという一連のプロセスが生まれる訳です。

ただ、これが準備できているお客様は、非常に稀有な存在です。自分たちはデータを保有していると思ってDXを進めていらっしゃっても、業務効率の改善でしかなく、これまでの日本企業がやってきたことと同じであるため、インパクトのある成果は出にくくなります。DXがその業務効率という分野に留まってしまうからです。

 

2. Peopleに潜む罠:イノベーションを起こせる人材はどこにいる?

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人は思い込みが強いものです。クリステンセン教授も「イノベーションのジレンマ」という理論で触れていますが、工業化社会において成功した企業は、ものづくりに強い成功体験を持っており、その体験に引っ張られる形でイノベーションを考えてしまう傾向があります。結果として革新的なものを生み出せず、つい今あるものを何でもデジタル化してしまえばいい、という思考で留まってしまうのです。

重要なのは、過去の成功にとらわれていないか、自覚的になることです。これは私たちのデータを分析して判明したことですが、成功体験を持つ人々が昇格していくと極端にリスク回避的になってくる傾向があります。デジタルの活用姿勢を見ても、過去に使ったことがないものに関しては、対応できなくなる傾向がみえます。

これをDXバイアスと呼んでおり、これを各自、特に経営陣が理解していないと全社一丸となってDXを進める際の大きな弊害となってしまいます。

 

イノベーションとリスク選考

日本生産性本部のアンケート結果によると、日本企業は破壊的イノベーションを起こしにくいと感じている方たちが全体の3分の2もいるようです。スライド21

欧米的な発想からすると、自社でイノベーションを起こせない場合、社員は会社の外へ出て、他の企業へ移ります。ところが日本の場合は、生涯雇用制度や年金制度など、辞めることの方に不利益を感じるためか、辞めずに労働の流動性を落とす、という事態がおこります。

また、アンケートを見ると、リスクを取ろうとしない経営陣にイノベーション阻害要因がある、と答えた方が全体の3分の2もいます。

私たちが売上1000億円以上のお客様25社に対しておこなった分析結果からも、同じ傾向が見てとれます。3544歳の方は、リスクを公平に見て判断できる状態ですが、それに対して、年を重ねるごとにリスクに対して消極的になっていく様子が明確に見えてきます。

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大企業社員の3割がDXに関わりたくない?

日経新聞でも取り上げられた調査結果ですが、大企業に所属する3割の人材が「DXに関わりたくない」と回答しています。本来イノベーションというものは、スティーブジョブズ氏が”Connecting the dots”と表現したように、境界線を持たないことが大切です。それでも、自分の領域を抱え込み、境界線を維持してしまう。そうすれば怒られないから、と言うのがその最大の理由のようです。

2番目の理由は、DX価値の矮小化、つまり、DXに取り組むだけの価値がない、結局何の役に立つかわからない、という考え方です。

もう1つの問題は、人事評価に関するものです。新事業にチャレンジしても現在の人事評価制度においては評価されない。それであれば、何のチャレンジもしたくない、と考える社員が非常に多いわけです。

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イノベーションを起こすための能力不足

クリステンセン教授は、イノベーションを起こすための5つの力を定めました。特に「アイデアを収集」し、「アイデアを組み合わせる」力が必要だ、と。

私たちIGS社にはDXGROWという仕組みがあり、多くの企業に属する社員様のデータをもとに各種能力を数値化しています。これを見る限り、クリステンセン教授がコア能力とおく「アイデアを収集」し「アイデアを組み合わせる」力が日本企業のDX担当者は低いようです。日本人は概して課題を設定する力や、それを実行する力には長けているのですが、様々な情報を取得し、新しいものをつくる面で弱みがあるようです。

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また、昨今注目を集めているESGSDGsといった、イノベーションには不可欠な分野への親和性も、地球市民力という名称で設定されていますが、ここも非常に弱い。

データを収集し分析することで、こうしたことがわかってきました。ただ悲観ばかりさせたいわけではなく、ここに気付くことで次の一手が打てる、ということに注目をしていただきたいのです。

 

DX人材、データサイエンティストの欠如

Peopleに関して、もう一つ大きな問題点があります。DXを担うデータサイエンティストという人材が欠如していること。経産省のHPからのデータによると、今後もこの状態は続くであろうとみられています。
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私たちのシミュレーションでは、意思決定におけるデータ利活用能力を年代毎に調べているのですが、もっとも能力が高いのは2534歳の群です。これが年齢と共に下がっていき、4554歳になると20%を割る程度、5564歳になると、10%程度しかデータを利活用した意思決定ができない。そんなことがわかっています。

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つまり、意思決定に関するデータ活用度が極端に低いことが日本の企業の特徴と言える訳です。こうしたことも、データを取っていかなければ気付けません。

3. Processに潜む罠:意思決定のプロセスは適切か?

いよいよ3つ目の罠であるProcessについてです。昨今の企業では、「両利きの経営」をテーマに掲げるところが多いようです。盤石な既存事業を持っている企業の場合、既存事業をつよめるために深化する機能と、新たな事業を生み出すために探索する機能、この二つの機能を組み合わせるとよい、という話です。相反する能力ですが、これは組織として持っておけばいいため、個人として持っておく必要性はありません。

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深化型と探索型、それぞれの役割を役職別に捉えてみると、実は取締役の方々は100%深化型です。取締役の方々は、これまでの既存事業での成功者たちです。そのためか、これまでの成功パターンをベースにした発想に偏ってしまい、新たなビジネスをつくっていくことに関しては長けていません。

すると、イノベーションを目指す企業としては探索型の人物をどう発掘してどう抜擢していくのか、が大切になってくる訳です。ですが、ここに関して明確なデータを持っている企業様はほとんどいません。私たちも様々な企業様にご協力いただき、全社員のデータ取りをさせていただく機会が増えてきました。

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実際にデータを分析して見ると、2030代の探索型人材として、大学や大学院で自然言語処理などを学んでいた方が見つかることがあります。ただし、イノベーションとは関連の薄い部署に配属されていて、本人にも探索型である自覚がない場合があります。この様に、各社員の棚卸をしてみることで、イノベーションに一歩近づくことがあるのではないかと思います。

 

 

罠を乗り越える方法

 

Philosophy:ヴィジョンに沿ったデータ生成

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では最後に、罠をどうやって乗り越えていくのかについて皆さんと考えていきたいと思います。

Philosophyに関してですが、まずはヴィジョンを設定するというのは大前提で、そのヴィジョンに沿ったデータを新たに生成するということが可能になります。顧客に関するデータを常に取得し、顧客の特徴、嗜好、どのような行動特性を持っているのかについて、リアルタイムで把握していきます。これを最大限活用していくことが、重要になってきます。また、AIスピーカーのように顧客に寄り添ったデータ取得方法も考えられます。

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People:人的資本の可視化

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Peopleに関しては、Gallego and Rodriguez理論というものがあります。企業が持つデータの種類とその有効度について分析をしたものです。

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日本企業は生産系につよいため、生産効率などのデータを豊富に保有し活用しています。一方、人材面で保有している人事考課や勤続年数と言ったデータはあまり活用されていません。

有効なデータとしては個人の能力や顧客との関係性などがあげられるのですが、まだ取得・保有されている企業は多くありません。そのため、有効だと判明しているこうしたデータをどう取得していくのか、これがまずは重要な起点となります。

 

また、人的投資における意思決定をどうするのか、従業員訓練や研修といった人的資産の生産をどう考えるのか。こうした戦略人事をデータに基づいて検討していく必要があります。

今私たちもいくつかの企業様と人的資本のリターンインベストメントに関して議論させていただいているところですが、企業としてDXにおけるROIを経営と一緒になってどのように進めていくのかが非常に重要です。

 

人材データを扱う危険性について

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人材データに関しては、ひとつ注意すべき点があります。人材に関するデータは、来年度からプライバシー権が一つ上の次元まで上がることになります。よく離職確率を出してもらえないか、という要望を受けることがありますが、実はここに関しては従業員の事前許可がないとできない、とアメリカで判例が出ています。

同じように、採用時のビデオ面接におけるAI利用も注意が必要です。たとえば受験者の顔の動きをAIが判断したアウトプットを出すことも、アメリカのいくつかの州では違法であるとされています。AIのブラックボックス化してしまった範疇の機能に関して、説明責任が持てないことが原因です。

そのため、安易に面接データを取得し始めてしまうと大きなリスクとなる可能性があります。どんなデータを、何を目的として取得するのか、非常に注意深く進める必要のある分野です。

 

Process:データに基づく意思決定

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Processにおいての考え方は、全体イノベーションをどうポートフォリオ管理するか、です。大企業のイノベーション成功確率は5%未満だと言われているため、新規投資一つひとつ稟議を上げ、現在価値を確認して判断していく手法ではうまくいきません。ここにもデータを活用した手法が有効です。

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たとえば、Bridge Waterという企業では、毎日のように360度分析を回し、AIとビッグデータによって意思決定の透明化を測っています。

具体的に言えば、社内の意思決定の際には、賛成と反対を人数による比較でみるだけでなく、過去それぞれのメンバーがどの程度の意思決定精度を持っているのかを反映させます。

たとえ多数派が賛成だったとしても、Bellevability-Weighted視点から、AIが反対という結論を出すこともある訳です。

 

 

人と組織を科学し、日本らしいDXへ
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本日私がお伝えしたかったことは、3Pという視点でイノベーションに向かう企業としての動きをデータ化させて、DXに活用していきましょう、ということでした。

私たちは3Pに関わるすべてをデータ化して課題を特定し、それに対する打ち手をご提供しています。

ぜひ皆様とご一緒にイノベーション、DXに取り組んでいければと思っています。

 

【福原 正大プロフィール】(ふくはら まさひろ)

福原写真2018-1

  現三菱UFJ銀行、現ブラックロック最年少マネージングディ
  レクター、日本法人の取締役を経て、2010IGS株式会社 
  を創設。20162月より、人工知能とビッグデータを活用し   
  て、採用や企業の組織分析を行う「GROW」をサービス開   
  始。慶應義塾大学特任教授。著書に『人工知能×ビッグデー
      タが「人事」を変える』(朝日新聞出版)等。

 

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